執著しゅうじゃく)” の例文
無学な多くの工人たちは、幸にも執著しゅうじゃくすべき個性を有たなかったであろう。無名な作者は、自からの名において、示さねばならぬ何物をも持ち合せなかったであろう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
死んだ父も、そうした物は、或は、おれよりもきだったかも知れぬほどだが、もっと物に執著しゅうじゃくが深かった。現に、大伴の家の行く末の事なども、父はあれまで、心を悩まして居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ただ、中に「隅田川すみだがわ」とか、「あやつづみ」の如きものがあって、これらはどこまでも苦悶くもん憂愁執著しゅうじゃくが続くのであるが、こういうものは異例である。大概成仏じょうぶつして舞を舞うという事に終る。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ふだんは生に対する執著しゅうじゃくが随分強かったがこうなると自然そんならくな気にもなるとみえる。どことも疎遠な私は知らないけれども家に子供がないので母はよその孫たちを可愛がったのであろう。
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
「平常」に居ることである。美醜の別は病いであるから、本来の「無事」に立ち戻ることである。それには第一に小さな自我を棄てるがよい。これに執著しゅうじゃくが残ると、迷いが去らない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)