吉三きちざ)” の例文
本郷ほんごう駒込こまごめ吉祥寺きちじょうじ八百屋やおやのお七はお小姓の吉三きちざに惚れて……。」と節をつけて歌いながら、カラクリの絵板えいたにつけた綱を引張っていたが
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
呆気にとられてそのまま阿母は表へでていったが、やがて仇っぽい粂三郎のおじょう吉三きちざの小さな羽子板かかえてかえってきた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
仙吉が臀を端折って弥造やぞうを拵え、職人の真似をして歩くと、信一も私も、しまいには光子までが臀を端折って肩へ拳骨を突っ込み、丁度おじょう吉三きちざのような姿をして
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
恋桜反魂香こいざくらはんごんこう」——つまり、おしちが、吉三きちざの絵姿をくと、煙の中に吉三が姿を現わして、所作になる——という、あの「傾城浅間嶽けいせいあさまだけ」を翻あんしたもの——そして
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
そしてまた、婆様がおたわむれに私を「吉三きちざ」「吉三」とお呼びになって下さった折のその嬉しさ。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
丁度吉祥寺きちしょうじの書院で、お七が吉三きちざにしなだれかかっている絵が出て居りました。忘れもしません。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
妾ゃ吉三きちざに惚れました
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
この模様風の背景をひかへし人物もまたきわめて人形らしく、その男は小姓こしょう吉三きちざその女は娘おしちならんか。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)