古外套ふるがいとう)” の例文
女が開き戸をあけると、平さんはこちらへ背を向けて、古外套ふるがいとうをぬいでいた。女は開き戸を閉めてから、あたしです、と呟くように云った。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「わかっています」と、Kは言い、廷丁の私服をながめたが、役目の唯一のしるしとして、普通のボタン二、三個のほかに、将校の古外套ふるがいとうから取ったらしい二個の金ボタンを見せていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
そうしてゆきの長過ぎる古外套ふるがいとうを着た両手を前の方に出して、ポンチ絵に似た自分の姿を鑑賞でもするように眺め廻した後で、にやにやと笑いながらお延を見た。お延の声はなお鋭くなった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
膝小僧ひざこぞうをかくす事が出来ないくらいの短い古外套ふるがいとうを着て、いつも寒そうにぶるぶる震えて、いつか汽車に乗られた時、車掌は先生を胡散うさんくさい者と見てとったらしく、だしぬけに車内の全乗客に向い
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
一人の農夫が兵隊へいたい古外套ふるがいとうをぬぎながら入って来ました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)