取繞とりま)” の例文
食堂から奥の座敷へ通うところは廻廊風に出来ていて、その間に静かな前栽せんざいがある。可成かなり広い、植木の多い庭が前栽つづきに座敷の周囲まわり取繞とりまいている。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
若し、右のような態度が、人類のあり得べき発達の少くとも或る程度迄到達した状態であるとしたら、今日、我々の周囲を取繞とりまく、日本の社会はどうであろう。
この南部牛のまだ気息の残ったのを取繞とりまいて、屠手のあるものは尻尾を引き、あるものは細引を引張り、あるものは出刃でもって咽喉のあたりを切った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
部屋へ来ては気休めに成るやうなことを言つて聞かせ、廊下へ出てはキヤツキヤツと笑ひ騒ぐ女中達に取繞とりまかれながらも、夫人の耳は兎角とかく患者の噂に傾いた。
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私が今住む家は殆んど周圍まはりを音樂で取繞とりまかれて居るやうなところにあります。