厳粛おごそか)” の例文
旧字:嚴肅
貫一は気を厳粛おごそかにしてせまれるなり。さては男も是非無げに声いだすべき力も有らぬ口を開きて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
画家のアトリエというよりはむしろ科学者の実験室のように冷く厳粛おごそかなものとして置いた書斎の中に、そうして忸々なれなれしくいられることを彼女は夢のようにすら楽しく思うらしかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
行末うなるのか! といふ真摯まじめな考への横合から、富江のはしやいだ笑声が響く。ツと、信吾の生白い顔があたまに浮ぶ、——智恵子は厳粛おごそかな顔をして、屹と自分をたしなめる様に唇を噛んだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あだかも深い林の中に消えて行く光のように。そこにはばたきするように輝いて来た堂内の燈火ともしびと、時々響き渡る重い入口のドアの音と、厳粛おごそかに沈んで行く黄昏時たそがれどきの暗さとが残った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何故というに、彼は世の多くの罪人が、無慈悲な社会の嘲笑ちょうしょうの石に打たるるよりも、むしろ冷やかに厳粛おごそかな法律のむちを甘受しようとする、そのいたましい心持に同感することが出来たからである。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
奥座敷の方へも進んで行って、神葬の古式による清げな白木の壇の前にひざまずき、畳の上にひたいをすりつけて、もはやこの世の一切の悲しいや苦しいも越えているように厳粛おごそかな師匠の死顔を拝した。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)