判然はき)” の例文
二百十日の風と雨と煙りは満目まんもくの草をうずめ尽くして、一丁先はなびく姿さえ、判然はきと見えぬようになった。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「さア。そう思ッていてもらわなければ……」と、西宮も判然はきとは答えかねた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
人も犬も草も木も判然はきと映らぬ古き世界には、いつとなく黒い幕が下りる。小さき胸に躍りつつ、まわりつつ、抑えられつつ走る世界は、闇を照らして火のごとく明かである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
古き寺、古きやしろ、神の森、仏の丘をおおうて、いそぐ事をせぬ京の日はようやく暮れた。倦怠けたるい夕べである。消えて行くすべてのものの上に、星ばかり取り残されて、それすらも判然はきとは映らぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)