刀痕かたなきず)” の例文
わしなんざ、現にあの中の浪人のひとりに、闇討ちをくらって、そのときの刀痕かたなきずは、まだ朝夕の寒さにはうずいてなりません。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「嘘です!」小浪はそでで眼を押えながら、「焼死したのではございません。父の死体には……刀痕かたなきずがございました」
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
顔面かおに千六本の刀痕かたなきず、血に塗れ雨に打たれて人相も証拠も見られないとしるや、二、三寸刺さった青竹を物をも言わず引き抜いて、ざぶり、首を天水桶へ突っ込んだ。
ははあ——御簾みすから扇の間へ出る柱のあの刀痕かたなきず——まざまざと眼の底には残るが、あれが机竜之助のした業だと誰がいう。その時分には、おれも眼が明いていたのだ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)