出歯でっぱ)” の例文
極端な例をいうと、女房に檀那取だんなとりをさせている男さえあるからな。土地会社の時分じぶん外交員に野島というせいの高い出歯でっぱの男がいたろう。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
少し出歯でっぱなミチはあまりしゃべりつづけて、時々かわいた上唇が歯ぐきにひっかかるようになるのを指でつまんではずしている。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
出歯でっぱの黄色い頭髪かみのけの鳥の巣のように絡んだ汚れたシャツを着て、黒いズボンを穿いて、太い腕に鉄槌てっついを携げてぎょろっと冷笑あざわらって私を見詰めた有様が目に浮んだ。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ある者はやはりいつもの青面あおづら出歯でっぱを抑えて笑っていた。わたしは彼等が皆一つ仲間の食人種であることを知っているが、彼等のかんがえが皆一様でないことも知っている。
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「おおい。兼公かねこう居るかア。出歯でっぱの兼公……生首なまくびの兼公は居ねえかア……」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その時、墓を出た骸骨がいこつを装って、出歯でっぱをむきながら、卒堵婆そとばを杖について、ひょろひょろ、ひょろひょろと行列のあとの暗がりを縫って歩行あるいて、女小児こどもおびえさせて、それが一等賞になったから。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)