六甲ろっこう)” の例文
唯一の望みは、尼ヶ崎から逃げて帰つて来たやうに、阪急の六甲ろっこうにある品子の家から逃げて来はせぬかと云ふことであつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夕方など、このばつけの板橋の上から、目白商業の山を見ると、まるで六甲ろっこうの山を遠くから見るように、色々に色が変って暮れて行ってしまう。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
近代的交通機関とその宣伝の行届く限りの近郊風景はことごとくこの黒髪の妖気と閑寂なる本堂の埃と暗闇の情景を征服して、寺といえども信貴山しぎさんとなり生駒いこまとなり六甲ろっこうとなり
「うん、東京にいるのがいやになって、旅に出ていた。実は神戸こうべの辺をブラブラしていたというわけさ。あっちの方は六甲ろっこうといい、有馬ありまといい、舞子まいこ明石あかしといい、全くいいところだネ」
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこは床屋とか洗濯屋とかパン屋とか雑貨店などのある町筋であった。中には宏大な門構えの屋敷も目についた。はるか上にある六甲ろっこうつづきの山の姿が、ぼんやりうるんだ空に透けてみえた。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おまけに窓から向うに六甲ろっこうの山がみえる、まるで真空のように空気が澄んでいるからなんだろう、山の白茶けた岩肌やところまだらな松林なんぞが、眼に痛いくらい鮮明にみえるには弱った。
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私はゴルフ・リンクスとして、これほど美くしい眺めと、親しみ易い温か味を持ったところを知らない。たしかに六甲ろっこう以上であって、東洋一と呼ばれているのも恐らくは過褒かほうではあるまい。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)