仰向あおの)” の例文
密閉した暗室の前に椅子が五脚ばかり並んで、それへ掛けたのが一人、男が一人、向うの寝台ねだいの上に胸を開けて仰向あおのけになっている。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なぜなぜと仰向あおのけに寝返りして善平はなお笑顔をらす。それだっても、さんざん私をいやがらせておいて、と光代は美しき目に少し角を見せていう。おれが何をいやがらせるものか。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
一体空を見るのは薬だというので、皆仰向あおのくような遊びでございますから、紙鳶をびい/\/\と揚げますれば、是非子供は空を見なければなりません。また羽根を突けば必ず空を見る。
若衆は、一支えもせず、腰を抜いたが、手をく間もない、仰向あおのけにひっくりかえる。独りでに手足が動く、ばたばたはじまる。はッあァ、鼬の形と同一おんなじじゃ。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
血にがれてのた打つさまして、ほとんど無意識に両手をひろげた、私の袖へ、うつくしい首が仰向あおのけになって胸へ入り、櫛笄くしこうがいがきらりとして、前髪よりは、眉がぷんと匂うんです。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戸外おもてかぎりもない狐火のようにちらちらちらちら炎だらけ。はッと後退あとじさりに飛ぶ拍子に慌ててつんのめって、仰向あおのけに倒れたやつでさ。もう天井からあかい舌を吐いてるじゃアありませんか。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はす仰向あおのざまにぐたりとなった。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)