人群ひとむれ)” の例文
すると、そのちりぢりになった人群ひとむれの中から、ただ一人、足早に駈けぬけて、向うへゆくお十夜の三人組へ、「しばらく!」と声を打ってひびかせた者がある。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伝法院でんぽういんの塀をはなれて池のふちへ出たところで、左の方から来る人群ひとむれの中に、友禅ゆうぜん模様の羽織はおりを着た小女こむすめ見出みいだした。彼はしずかにその方へ寄って往って、その顔をじっと見ながら微笑を送った。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
南家の郎女いらつめにも、さう言ふ妻覓つままぎ人が——いや人群ひとむれが、とりまいて居た。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
こなたの人群ひとむれの中に隠れて、ハラハラしていたお綱と万吉も、どうやら、この分ならばとホッとしていた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南家なんけ郎女いらつめにも、そう言う妻覓つままぎ人が——いや人群ひとむれが、とりまいて居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「もし、ちょっとお訊ね申すが……」と、その人群ひとむれへ、錫杖しゃくじょうを止めた山伏がある。久しぶりに、峰入りから都へもどってきたものとみえ、山伏は、ひげをのばし、皮膚は、松の皮みたいに赭黒あかぐろかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)