乗降のりおり)” の例文
旧字:乘降
その時、先刻から車掌台の横手につかまって、車の動揺にふらふらと身を任せながら、客の乗降のりおりの邪魔となってる洋服の男が、彼の眼に止った。
電車停留場 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
けれども乗降のりおりの一混雑が済んで、思う人が出て来ないと、また心に二三分の余裕よゆうができるので、それを利用しようと待ち構えるほどの執着はなかったにせよ
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
乗降のりおりが大分混合こみあっている。其処を出ると足柄か天城か、真白に雪の輝いた連山が眺められた。車窓近くの百姓家の段々畑の畔に梅が白々と咲いて居る。今年初めて見る梅である。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
すき一つ入れたことのない荒蕪地あれちの中に建てられた、小さい三等駅だから、乗降のりおりの客と言つても日に二十人が関の山、それも大抵は近村の百姓や小商人こあきんどばかりなのだが、今日は姉妹きやうだいの姿が人の目を牽いて
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
人の乗降のりおりも無く
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彼は首を延ばすようにして、また東の停留所を望んだ。位地のせいか、むきの具合か、それとも自分が始終乗降のりおりに慣れている訳か、どうもそちらの方が陽気に見えた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まゆと眉の間の黒子ほくろだけであるが、この日の短かい昨今の、四時とか五時とかいう薄暗い光線のもとで、乗降のりおりに忙がしい多数の客のうちから、指定された局部の一点を目標めじるし
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)