両肌もろはだ)” の例文
芸者が両肌もろはだ抜いで化粧している処や、お客が騒いでいる有様までが、垣根や板塀を越しあるいは植込の枝の間を透して円見得まるみえに見通される。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「そう言われるとこっちもしゃくだあな、よし、向うが仏眼なら、こっちもがんりきだ、一番その遊行上人とやらを遣付やっつけましょうと、こう両肌もろはだを脱いじまった」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
俺はその中で尻をはしょって、両肌もろはだぬぎになり、おイちニ、おイちニ、と馳け足をはじめる。二十分だ。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
妻君は命ぜられた通り風呂場へ行って両肌もろはだを脱いで御化粧をして、箪笥たんすから着物を出して着換える。もういつでも出掛けられますと云う風情ふぜいで待ち構えている。僕は気が気でない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
両肌もろはだ脱いで脇差わきざしに手を掛ければ、主人はじめ皆々駈け寄って、その手を抑え
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
駅路の遊君は斑女はんじょ照手てるての末流にして今も夕陽ゆふひななめなる頃、泊り作らんとて両肌もろはだぬいで大化粧。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女は口をゆがめて、懐紙ふところがみで生際の油をふきながら、中仕切の外の壁に取りつけた洗面器の前に立った。リボンの簾越しに、両肌もろはだをぬぎ、折りかがんで顔を洗う姿が見える。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
両肌もろはだを抜いで汗を流して引っ張ったけれども、どうしても動かないんですって
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鏡に向って両肌もろはだを脱ぎ角力取すもうとりが狐拳きつねけんでもしているような恰好かっこうでやっさもっさおしろいをぬたくって、化物のようになり、われとわが顔にあいそをつかしてめそめそ泣き出し、お針のお六は
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)