不可得ふかとく)” の例文
三世にわたるなんてえのは、大袈裟おおげさ法螺ほらだろうが、不可得ふかとくと云うのは、こんな事を云うんじゃなかろうかと思う。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それ故わたくしは蘭軒がいづれの書を講じたかを究めむと欲して、大いに推定の困難を感ずる。蘭軒の講ずべき書を此中に求めむことは、殆ど不可得ふかとくである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
人生のほかに出で、人生を望み見て、人生を思議する時、人生は遂に不可得ふかとくなり。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そののちさる温泉場で退屈だから、宿の本を借りて読んで見たらいろいろ下らない御経の文句が並べてあったなかに、心は三世にわたって不可得ふかとくなりとあった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これをもつとづかしい哲学的な言葉でふと、畢竟ひつきやうずるに過去は一の仮象かしやうに過ぎないといふ事にもなる。金剛経にある過去しん不可得ふかとくなりといふ意義にも通ずるかも知れない。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)