一雪崩ひとなだれ)” の例文
てまいがその顔の色と、おびえた様子とてはなかったそうでございましてな。……お社前の火事見物が、一雪崩ひとなだれになってりました。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それがためにみんな一雪崩ひとなだれに、引返ひっかえしたっていいますが、もっとも何だそうで、そのさきから風が出て大降になりました様子でござりますな。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、蔵前の煙突も、十二階も、睫毛まつげ一眸ひとめの北のかた、目の下、一雪崩ひとなだれがけになって、崕下の、ごみごみした屋根を隔てて、日南ひなたの煎餅屋の小さな店が、油障子も覗かれる。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その内に、物見の松のこずえさきが目に着いた。もう目の前の峰を越すと、あの見霽みはらしの丘へ出る。……後は一雪崩ひとなだれにずるずると屋敷町の私の内へ、すべり込まれるんだ、とほっと息をした。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)