一町ひとまち)” の例文
時ならぬ温気うんきのためか、それか、あらぬか、その頃熱海一町ひとまち、三人寄れば、風説うわさをする、不思議な出来事というのがあった。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そんな限られた海へ出る人の一町ひとまちがあるのだとは私も信じ得ないが、そこは要するに留守を守る女ばかりの一区劃くかくであって
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
春日新九郎は、してやったりと心のうちよろこびながら、ツウと門内へ入ってしまうと、さすがに京極家の中屋敷、一町ひとまちを縮めたような広さである。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一町ひとまち、中を置いた稲葉家の二階のてすりに、お孝は、段鹿子だんかのこの麻の葉の、膝もしどけなく頬杖して、宵暗よいやみの顔ほの白う、柳涼しく、この火の手をながめていた。……
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
但馬たじまから山越えで備前へ往来する旅人など、この山中の一町ひとまちには、かなり諸国の人間がながれこむので、山また山の奥とはいえ、旅籠はたごもあれば、呉服屋もあり、夜になると
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて一町ひとまち出はずれて、小松原に、紫陽花あじさいの海の見える処であった。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)