一旒いちりゅう)” の例文
その中に又黒塗の箱が有り、それには武田家の定紋染めたる旗一旒いちりゅうに一味徒党の連判状、異国の王への往復書類などが出たとある。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
いらだちきった組頭は、この上は、自身糺問きゅうもんに当らねばらちが明かんと覚悟した時分、黒灰浦の海岸の陣屋の方に当って、一旒いちりゅうの旗の揚るのを認めました。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
僕も立ちあがると、二人ともおそろしく脚がフラフラとして止め難く、二人は一旒いちりゅうの旗の両端をつかんだまま
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
踏切りの近くには、いずれも見すぼらしい藁屋根わらやねかわら屋根がごみごみと狭苦しく建てこんで、踏切り番が振るのであろう、唯一旒いちりゅうのうす白い旗がものうげに暮色をゆすっていた。
蜜柑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「白旗が一旒いちりゅう——音もなく竿にもたれている、なんとなく物々しい」
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)