一廉いつかど)” の例文
師匠の左内は四十前後で、色の黒い、眼の鋭い、筋骨の逞ましい、見るから一廉いつかどの武芸者らしい人物であった。
親代々家禄で衣食した士族の官吏の家では官吏を最上の階級とし、官吏と名が附けば腰弁こしべんでも一廉いつかどの身分があるように思っていたから、両親初め周囲のものは皆二葉亭の仕官を希望していた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
同じく大椀に添へ山葵わさび大根ねぎ海苔のり等藥味も調とゝのひたり蕎麥は定めて太く黒きものならんつゆからさもどれほどぞとあなどりたるこそ耻かしけれ篁村一廉いつかどの蕎麥通なれど未だ箸には掛けざる妙味切方も細く手際よく汁加减つゆかげん甚はだし思ひ寄らぬ珍味ぞといふうち膳の上の椀へヒラリと蕎麥一山飛び來りぬ心得たりと箸を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)