身悶みもだ)” の例文
二人の相撲すもうは力を入れ、むきになっているくせに、時々いかにもこそばゆいという風に身悶みもだえしてキャッキャッと笑い興じていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
おひさは身悶みもだえをし、声をあげて泣くのであった。計之介はそれをやめさせようとし、ときにしばしば女の口をふさいでどなりさえした。
葦は見ていた (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
女は身悶みもだえして、からみついている蛇の口から逃れようとするが、いよいよそれは、しっかりと巻き締めて、骨身ほねみに食い入るようです。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
折くべ居る時しも此方の納戸なんど共覺しき所にて何者やらん夥多おびたゞしく身悶みもだえして苦しむ音の聞ゆるにぞ友次郎はきもつぶし何事成んと耳を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼女は、蜘蛛くもだ。恐ろしく、美しい蜘蛛だ。自分が彼女にささげた愛も熱情も、たゞ彼女の網にかゝったちょう身悶みもだえに、過ぎなかったのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ある新聞社が、ミス・日本をつのっていた時、あの時には、よほど自己推薦しようかと、三夜身悶みもだえした。大声あげて、わめき散らしたかった。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
おおうた佐助々々わてはあさましい姿にされたぞわての顔を見んとおいてと春琴もまた苦しい息の下から云い身悶みもだえしつつ夢中で両手を動かし顔を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
省三は何事が起ったろうと思い思いその傍へ往った。と、壮い女の姿は無くなって細君が一人苦しんで身悶みもだえをしていた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「ああ悔しい‼……思いつめた女に友達と見変えられた」といってかっと両子で頭髪あたまを引っいて蒲団の中で身悶みもだえした。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
私は身悶みもだえし、蓋を押し開こうとして痙攣的な動作をした。蓋は動こうともしなかった。ベルの綱を捜して手首にさわってみた。それもなかった。
婦人はあっ身悶みもだえして、仰向あおむけ踏反返ふんぞりかえり、苦痛の中にも人の深切を喜びて、莞爾にっこりと笑める顔に、吉造魂飛び、身体溶解とろけ、団栗眼どんぐりまなこを糸より細めて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女がしずまったのはずっと後のことで、朝の十時近くになってからであった。やっと泣きやんで、身悶みもだえも止まると、今度はひどく頭痛がし出した。
それに、あの尼僧のような性格を持った方が、声をふるわせ身悶みもだえまでして、私の身を残酷にお洗いたてになるのでした。馬具屋の娘……賤民チゴイネルですって。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼はどうしていいかわからないという風に、身悶みもだえしていたが、やがて、やっと決心がついたという顔になって
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
身悶みもだえして泣き狂っている彼女を慰めていたわって、再び挽地物屋の店へ連れて帰った。しかしお冬の家は親ひとり子ひとりで、その親は拘引されている。
慈悲心鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は独居の部屋に閉じ籠り、頭を抱えて身悶みもだえして呻吟うめくより外なかった。それでいながら経巻や仏像の影を見ることには前より一層厭嫌の感情を増した。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それがどうも盗人の言葉に、聞き入っているように見えるではないか? おれはねたましさに身悶みもだえをした。が、盗人はそれからそれへと、巧妙に話を進めている。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は殴られるたびに、身悶みもだえしたので、後手にくくられた手が、荒い柿の肌で、むごたらしくけた。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
死の舞踏のやうな歡喜の身悶みもだえをする時には、白つぽくぼやけた茶色の壁の上を、それのグロテスクな物影が壁の半分以上を黒くして、音こそは立てないけれども
やがて、二本の螯が、頭の上で、大きく半円を描いたかと思うと、今度は、巨大な虫の全身がモゾモゾと動き出して、まともに起き返ろうと身悶みもだえするかに見えた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いや一人はいる。宗純そうじゅん和尚(一休)がそれだ。あの人の風狂には、何か胸にわだかまっているものが迸出ほうしゅつを求めて身悶みもだえしているといったおもむきがある。気の毒な老人だ。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
「この恥知らず……貴方は到頭たくらんだのですね! 企んだのですね!」と妻は歯軋はぎしりせんばかりに身悶みもだえした。急いで身を翻すと今度は枕許の卓上電話を取り上げた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
今日まで一度だつて自分を女だと思つた事のない広岡女史は、それを聞くともう溜らないやうに身悶みもだえした。大きな膝の下では椅子が苦しさうに、ぎち/\泣き出した。
「あい。ま! あの方も、念日様も、あそこへ曳かれてまた折檻に合うていなさりますと見え、あの影が、身悶みもだえしておりまするあの影が、わたしの念日様でござります」
襖の奥に、軽い身悶みもだえをする響きが伝わったが、それも、こらえ声も止んでしまうと、お稲のからだは抵抗を失ったように、いつまでも、狭い低い暗闇に口がきけなくなっていた。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この不思議な装置の重圧する機械はゆるゆると地下を匐い、それゆえ、全身はさかしまにつるされながら暗黒の中を匐って行く。苦しいあえぎと身悶みもだえの末、更に恐しい音響が破裂する。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
青年はすると、誘うまでもなく、酷く焦燥しながら、身悶みもだえをするようにして署長の背後うしろ追縋おいすがって行った。その後から、三人の刑事は、何か目交みまぜをして、薄笑いながら跟いて行った。
あるいはまたあたかも、群集の中を通りながら、二つの深い眼にぶつかったようなものだった。そういう現象はしばしば、精神が空虚のうちに身悶みもだえをする悄沈しょうちんの時間のあとに起こった。
我と我身がうらめしいというような悩みと、時機を一度失えば、もう取返しのつかない、身悶みもだえをしても及ばないくいちがいが、穏かに、寸分のすきもなく、傍目わきめもふらせぬようにぴったりと
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
窓とすれすれのところで苦しげに葉を揺すりながら身悶みもだえしているような樹々の外には殆ど何も見えない客車の中で、圭介は生れてはじめての不眠のためにとりとめもなくなった思考力で
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それを聞くと子供はつけこむやうに殊更声を曇らしながら身悶みもだえした。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
悲しいのか、せつないのか、何の考えさえもつかなかった。唯、身悶みもだえをした。するとふわりと、からだは宙に浮き上った。留めようと、袖をふれば振るほど、身は次第に、高くかけり昇って行く。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
彼女の全身は荒い呼吸と苦痛と、身悶みもだえに波のごとくうねった。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
その上に俯伏うつぶして肩ををのゝかせ、身悶みもだえし乍ら泣き出した。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
妙案が咄嗟とっさに浮かばないので、鳰鳥は木蔭で身悶みもだえした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
微風そよかぜなげけば、花のぬれつつ身悶みもだえぬ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
本当に息苦しくて身悶みもだえをしたほどだった。もののあわれということに気づいたのはそんな頃からではなかったかと思う。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
例の親熊の皮を欲しがって身悶みもだえをするのだということが、昨晩の実例と、説明とを聞いているだけに、米友の頭にはハッキリと受取れました。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ある新聞社が、ミス・日本を募っていたとき、あのときには、よほど自己推薦しようかと、三夜身悶みもだえした。大声あげて、わめき散らしたかった。
愛と美について (新字新仮名) / 太宰治(著)
彷徨さまよいあるき、なにかの幸福を手掴てづかみにしたい焦慮しょうりょに、身悶みもだえしながら、遂々とうとう帰国の日まで過してしまいました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それがどうも盜人ぬすびと言葉ことばに、つてゐるやうにえるではないか? おれはねたましさに身悶みもだえをした。が、盜人ぬすびとはそれからそれへと、巧妙かうめうはなしすすめてゐる。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その痛みからまた父が深く懐われて来まして、しばらくは天も地も挟みよじれよとばかり身悶みもだえしました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お沢 (身悶みもだえしながら)堪忍して下さいまし、堪忍して下さいまし、そればかりは、そればかりは。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや一人はゐる。宗純そうじゅん和尚(一休)がそれだ。あの人の風狂には、何か胸にわだかまつてゐるものが迸出ほうしゅつを求めて身悶みもだえしてゐるといつたおもむきがある。気の毒な老人だ。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
父は、座にもえないように、身悶みもだえして口惜くやしがった。握っているこぶしがブル/\とふるえた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と、練絹ねりぎぬのようにそれへ横たわると、もう身も世もない姿だった。同時に、彼女の肌のれでもないあやしい香気、それも薫々くんくん身悶みもだえを感じるような匂いの底にきくるまれる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああ旦那は何にもお知りなさらねい。旦那こりゃ容易ならねえ話でやすぜ。旦那あ引っ繰りけえりなさるだから」とホセはうまく言い現せないで、身悶みもだえせんばかりの様子であった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
若い士官は蛙のやうに霊魂たましひまで吐き出しさうに、また一頻り身悶みもだえした。
そのつど頼正は身悶みもだえする。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
重い苦患くげん身悶みもだえて
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)