襯衣しやつ)” の例文
昔しながらの薄着で、肩がると言つて襯衣しやつは決して着ないから、襦袢の白い襟の間から茶褐色に痩せた斑點のある肌が見えてゐた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
宗助そうすけはじめて自分じぶんいへ小六ころくこといた。襯衣しやつうへからあたゝかい紡績織ばうせきおりけてもらつて、おびをぐる/\けたが
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
翌日あくるひ手伝の娘を一人附けて呉れた。矢張やつぱりミハイロ同様な貧乏人で、古ぼけた頭巾づきんに穴のいた腰巻に、襯衣しやつと、それで身上しんしやう有りツたけだといふ。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
白髪しろが頭にふちの垂れた黒い帽をて紅い毛糸のぶくぶくした襯衣しやつに汚れた青黒い天鵞絨ビロウド洋袴パンタロン穿き、大きな木靴をひきずつて
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ここでも大河内君はにこにこしてゐながら、胸のところから襯衣しやつをのぞかし呑手らしくちびりちびりとやつてゐた。
京洛日記 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
僕らは文部大臣を敬礼するために四五日の間その稽古けいこをし、滅多に穿くことのないはかまを穿き、中にはこれも滅多には襯衣しやつを著たりなどして学校に行つたのであつたが
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
暖かな半島の旅を予想して、外套だけは雨の用意に着て来たが、手袋も持たず、襯衣しやつも薄くして来た。手の甲がピリ/\痛み出し、顔は皺ばつた。二階を降りるに足は重かつた。
伊良湖の旅 (新字旧仮名) / 吉江喬松(著)
あつくるしいね、かすりの、大島おほしまなにかでせう、襟垢えりあかいたあはせに、白縮緬しろちりめん兵子帶へこおびはらわたのやうにいて、近頃ちかごろだれます、鐵無地てつむぢ羽織はおりて、温氣うんきに、めりやすの襯衣しやつです。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして何處から工面したものか、十三圓の金を手づから俊吉の襯衣しやつの内衣嚢かくしに入れて呉れた。これが、父の最後の言葉で又最後の慈悲であつた。今は再び此父を此世に見る事は出來ない。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのかげに、あか襯衣しやつぬぎ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
尤も驚ろいたのは此暑いのにフランネルの襯衣しやつを着て居る。いくら薄い地には相違なくつても暑いには極つてる。文学士丈に御苦労千万な服装をしたもんだ。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして、何処から工面したものか、十三円の金を手づから俊吉の襯衣しやつ内衣嚢うちかくしに入れて呉れた。これが、父の最後の言葉で、又最後の慈悲であつた。今は再びこの父をこの世に見る事は出来ない。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
珈琲店キヤツフエに夜かしをして帰つて寝巻に着へようとする度、襯衣しやつの下から迄コンフエツチがほろほろとこぼれて部屋中に五しきの花を降らせた。しか巴里パリイで第一にさかんな祭は三月のミカレエムだと云ふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ひたいひろの大きな仏教に縁のある相である。ちゞみ襯衣しやつの上へ脊広せびろを着てゐるが、脊広せびろ所々ところ/″\しみがある。せいは頗る高い。瘠せてゐる所が暑さに釣り合つてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「おゝ、うだつたか」とひながら、はなは面倒めんだうさうに洋服やうふくへて、何時いつものとほ火鉢ひばちまへすわつた。御米およね襯衣しやつ洋袴ずぼん靴足袋くつたび一抱ひとかゝへにして六でふ這入はいつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
朝食後あさめしご襯衣しやつかさねて、外套をて、さむくない様にして、美禰子のうちつた。玄関によし子が立つて、今沓脱くつぬぎりやうとしてゐる。今あにの所へ行く所だと云ふ。美禰子はゐない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
三四郎はついと立つて、革鞄かばんなかから、キヤラコの襯衣しやつ洋袴下づぼんしたを出して、それを素肌すはだへ着けて、其上から紺の兵児帯へこおびめた。それから西洋手拭タウエル二筋ふたすぢ持つたまゝ蚊帳かやなかへ這入つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
安井やすゐ自身じしんもそんな心持こゝろもちがするとつて、わざ/\襯衣しやつそでまくげて、青筋あをすぢはひつたうでひとりでてゐた。御米およねうれしさうにかゞやかした。宗助そうすけにはその活溌くわつぱつ目遣めづかひことめづらしく受取うけとれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
平岡へ手紙をいて、会見の都合を聞き合せ様として、筆を持つて見たが、急に責任の重いのが苦になつて、拝啓以後を書きつゞける勇気が出なかつた。卒然、襯衣しやつ一枚になつて素足で庭へした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)