ゆく)” の例文
水をわたすがたたるゆゑにや、又深田ふかたゆくすがたあり。初春しよしゆんにいたれば雪こと/″\こほりて雪途ゆきみちは石をしきたるごとくなれば往来わうらい冬よりはやすし。
この時再び家を動かして過ぎ去る風のゆくえをガラス越しに見送った時、何処とも知れず吹入った冷たい空気が膝頭から胸に浸み通るを覚えた。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
御渡しなされて下されましと金子きんす二分を渡しけるに非人共は受取千人ための方へゆくれ/\傳助や彼の富右衞門とやらのくびを知てるかと聞て馬鹿ばか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二人は、頭を没する熊笹の間を僅に通う帯ほどのみちを暫くゆくと、一人の老人の百姓らしきに出遇つたので、余は道庁の出張員が居る小屋を訊ねた。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
なお因縁深ければ戯談じょうだんのやりとり親切の受授うけさずけ男は一寸ちょっとゆくにも新著百種の一冊も土産みやげにやれば女は、夏の夕陽ゆうひの憎やはげしくて御暑う御座りましたろと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
歌舞伎小唄浄瑠璃抔のたわれたることを見聴みきくべからず。宮寺などすべて人の多く集る所へ四十歳より内は余りゆくべからず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
熊次郎、おいく、茂吉、青根入湯にゆく。八月十三日、大雨降り大川の橋ながれ。八月十四日。天気よし。熊次郎、おいく、茂吉三人青根入湯がへり。八月廿三日。天気吉。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ゆく尿ししの流れは臭くして、しかも尋常の水にあらず、よどみに浮ぶ泡沫うたかたは、かつ消えかつ結びて、暫時しばしとどまる事なし、かの「五月雨さみだれに年中の雨降り尽くし」とんだ通り
家禄はありながらかくなりゆくは、穀潰ごくつぶしとも知行ちぎょうぬすみともいうべし。(『太平絵詞』)
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
かの末木の香は「世の中の憂きを身に積む柴舟しばふねやたかぬ先よりこがれゆくらん」
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
千里をゆく爪先つまさきの向けやうにて始まる者なれば物事は目の附けやうこそ大切なれ。善き所に目を附けて学ぶ人は早くそのを悟り悪しき所に目を附け学ぶ人は老に至るもその不可ふかを知らず。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
戸をあけて還る人々雪しろくたまれりといひてわびわびぞゆく
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
そばゆく袂の下のさくらかな 潘川
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ゆくふねに岸根をうつや春の水 太祇
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
創造してゆくんだぞッ……
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
たづねゆく
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
... 働く鬼の女房にょうぼに、」源「枕探しの鬼神きじんとやら、」菊「そういうお主が度胸なら、明日あすが日ばれて縄目にあい、」源「お上のお仕置受ければとて、」菊「ひまゆく駒の二人づれ、」源「二本のやり二世にせかけて、」菊「離れぬ中の紙幟かみのぼり、」源「はては野末に、」菊「身は捨札、」源「思えば果敢はかない、」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の男それ結構けつこうなこと隨分ずゐぶん御達者で御歸りなされましハイ然樣さやうならばとわかゆくを重四郎は振返ふりかへり見れば胸當むねあてをして股引もゝひき脚絆きやはんこしには三度がさを附大莨袋おほたばこいれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いかんとなれば冬の雪はいかほどつもりても凝凍こほりかたまることなく、脆弱やはらかなる事淤泥どろのごとし。かるがゆゑに冬の雪中はかんじきすかり穿はきみちゆく里言りげんには雪をこぐといふ。
小間癪こましゃくれて先の知れぬ所へゆくいやだと吼顔ほえづらかいてにげでも仕そうな様子だから、買手の所へ行く間一寸ちょっと縛っておいたのだ、珠運しゅうんとかいう二才野郎がどういう続きで何の故障こしょう
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
衣裳をも同処おなじところおかず、同じ所にてゆあみせず、物を受取渡す事も手より手へじきにせず、よるゆくときは必ずともしびをともしてゆくべし、他人はいふに及ばず夫婦兄弟にても別を正くすべしと也。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
父の日記は、大凡おほよそ農業日記であつて、そのなかに、ぽつりぽつり、僕に呉れた小遣銭こづかひせんの記入などがあるのである。明治廿二年のくだりに、宝泉寺え泥ぼうはひり、伝右衛門下男げなんもちて表よりゆく
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ゆく春や鳥うをの目は涙 芭蕉
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
調とゝのさふらひ兩人に提灯持鎗持草履取三人越前守主從しゆじう四人都合十人にて小石川こいしかは御屋形を立出たちいで數寄屋橋御門内なる町奉行御役宅をさしいそゆくはやこく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
里人りじんは雪車に物をのせ、おのれものりて雪上をゆく事舟のごとくす。雪中は牛馬の足立ざるゆゑすべて雪車そりを用ふ。春の雪中おもきおはしむる事牛馬うしうままさる。
一 女は我親の家をばつがず、舅姑の跡を継ぐ故に、我親よりも嫜を大切に思ひ孝行をなすべし。嫁して後は我親の家にゆくこともまれなるべし。まして他の家へは大方は使をつかわして音問いんもんなすべし。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ゆくはるや鳥き魚の目は涙 芭蕉
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
○又尾張の名古屋の人吉田重房があらはしたる筑紫記行つくしきかう巻の九に、但馬国たじまのくに多気郡たけこほり納屋村なやむらより川船にて但馬の温泉いでゆいた途中みちしるしたるくだりいはく、○猶舟にのりてゆく
そりを引てたきゞきることいひあはせてゆくときは、二三人のしよくを草にてあみたる袋にいれてそりにくゝしおくことあり。山烏やまからすよくこれをしりてむらがりきたり、袋をやぶりてしよく喰尽くらひつくす。