つやや)” の例文
旧字:
何の樹とも知らないが、これが呼びものの、門口もんぐちに森を控えて、庭のしげりは暗いまで、星に濃く、あかりに青く、白露しらつゆつややかである。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仮令たとえ、私のなめらかな頬に少年のおもかげがせなかったにもしろ、私の筋肉が世の大人達のように発達せず、婦女子の如くつややかであったにもしろ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
闇に身を任せ、われを忘れて見詰めていると闇につややかなものがあって、その潤いと共に、心をしきりになぶられるような気がする。お絹? はてな。これもまた何かの仕掛かな。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何んでも母が、まだ若くて頭髪かみも黒く、つややかで、白い顔を少し横に向けて、三味線を抱えて庭の方を見ながら歌った。青い木の葉が、ぼんやりと夕暮の空気の中に浮き出ていた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
人心地ひとごこちもなく苦しんだ目が、かすかいた時、初めて見た姿は、つややかな黒髪くろかみを、男のようなまげに結んで、緋縮緬ひぢりめん襦袢じゅばん片肌かたはだ脱いでいました。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
髪のいと黒くてつややかなるを、元結もッといかけて背に長く結びて懸けつ。大口の腰に垂れて、舞う時なびいて見ゆる、また無き風情なり。狩衣かりぎぬの袖もゆらめいたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
周囲にさくを結いたれどそれも低く、錠はあれどさず。注連しめ引結いたる。青くつややかなるまろき石のおおいなる下よりあふるるをの口に受けて木の柄杓ひしゃくを添えあり。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
筆者わたしはその時、二人の酒席のつややかな卓子台ちゃぶだいの上に、水浅黄のつまを雪なす足袋に掛けて、片裾庭下駄を揚げた姿を見、且つ傘のしずくの杯洗にこぼるる音を聞いた。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お蝶、」とちと鋭くいうと、いつも叱るのをはぐらかす伝で、蝶吉は三指をいて的面まともつぶし島田に奴元結やっこもとゆいを懸けた洗髪あらいがみつややかなのを見せて、俯向うつむけにかしこま
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つややかに姿白く、袖もなえて、露に濡れたような風情。推するにかれは若山の医療のために百金を得まく、一輪の黒百合を欲して、思い悩んでいるのであろう。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いたづらツねえ。」と莞爾にっこり、寝顔を優しくにらむと、いちごつゆつややかなるまで、朱の唇に蠅が二つ。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
広き土間桟敷さじきびて人の気勢けはいもなく、橋がかりつややかに、板敷白き光を帯びて、天井の煤影すすかげ黒く映りたるを、小六はじッと見て立ったりしが、はじめてうるめる声して
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
濃かりし蒼空あおぞらも淡くなりぬ。山のに白き雲起りて、練衣ねりぎぬのごときつややかなる月の影さしめしが、いたるよう広がりて、墨の色せるいただきつらなりたり。山はいまだ暮ならず。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
常にそれを、たばがみにしてカツシとしろがねかんざし一本、濃くつややかにうずたかびんの中から、差覗さしのぞく鼻の高さ、ほおの肉しまつて色は雪のやうなのが、まゆを払つて、年紀としの頃も定かならず
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と見ると、藤紫に白茶の帯して、白綾しろあや衣紋えもんかさねた、黒髪のつややかなるに、鼈甲べっこう中指なかざしばかり、ずぶりと通した気高き簾中れんじゅう。立花は品位に打たれて思わずかしらが下ったのである。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中ざしキラキラとさし込みつつ、円髷まるまげつややかなる、もとわが居たる町に住みて、亡き母上とも往来ゆききしき。年紀としわかくてやもめになりしが、摩耶の家に奉公するよし、予もかねて見知りたり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とお通は黒くつややかな瞳をもって老夫の顔をじろりと見たり。伝内はビクともせず
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小六のはだは白かりき。色の黒き婦人ものにては、木戸にるが稀なりとて、さる価をぞ払いしなる。手品師はせんずるに半ば死したる小六の身のそのうつくしくつややかなりし鳩尾きゅうび一斤の肉を買いしなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
畦の嫁菜をつまにして、その掛稲の此方こなたに、目もはるかな野原刈田を背にしてあわいが離れてしかとは見えぬが、薄藍うすあい浅葱あさぎの襟して、髪のつややかな、色の白い女が居て、いま見合せた顔を、急に背けるや否や
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すらりと草に、姿横に、露を敷いて、雪のかいな力なげに、ぐたりと投げた二の腕に、枕すともなくつややかなびんを支えた、前髪を透く、清らかな耳許みみもとの、かすかるる俯向うつむなり、膝を折って打伏した姿を見た。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)