やや)” の例文
然れども帝黙然たることやや久しくして曰く、けい休せよと。三月に至って燕王国にかえる。都御史とぎょし暴昭ぼうしょう燕邸えんていの事を密偵して奏するあり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ピエエル・オオビュルナンはややひさしく物を案じている。もうよほど前からこの男は自己の思索にある節制を加えることを工夫している。
田舎 (新字新仮名) / マルセル・プレヴォー(著)
しかしやや久しく話しているうちに、保が津軽人だと聞いて、少しくおもてやわらげた。大江の母は津軽家の用人栂野求馬とがのもとめの妹であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ややしばしありて雪子は息の下に極めて恥かしげの低き声して、もう後生ごしようお願ひで御座りまする、その事は言ふて下さりますな
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
八幡下の田圃を突切つっきって、雑木林の西側をこみちに入った。立どまってややひさしく耳をました。人らしいものゝもない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一瞬時なりともこの苦悩この煩悶を解脱のがれようとつとめ、ややしばらくの間というものは身動もせず息気いきをも吐かず死人の如くに成っていたが、倏忽たちまち勃然むっく跳起はねおきて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
兄は打衝ショックを受けた人の様に一寸扇の音をとどめた。しばらくは二人とも口を聞き得なかった。ややあって兄が
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ややありてかれの身を起し、もと来し方にかえるを見るに、その来りし時に似もやらで、太く足許あしもとよろめきたりき。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ややあって「所で婆さん、初めの話に帰るのだが、其の美人は誰が抱いて出たえ、馬車の中から」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ぶんいはく、『しゆわかうしてくにうたがひ、大臣だいじんいまかず、百せいしんぜず、ときあたつてこれぞくせんこれわれぞくせん』と。默然もくぜんたることややひさしうしていはく、『これぞくせん』
ややありてお登和が西洋皿へ御馳走を盛りて出で来る。小山急に振返り「モシお登和さん、今のお話しはね」と語り出さんとするにお登和嬢皿を食卓の上に置きて再び台所へ逃げて行く。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
筆をとどめて悠然ゆうぜんたることややひさし。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
かつて黒田伯清隆きよたかに謁した時、座に少女があって、やや久しく優の顔を見ていたが、「あの小父おじさんの顔はさかさに附いています」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
蒼白あおじろい雪の黄昏たそがれである。眼の届く限り、耳の届く限り、人通りもない、物音もしない。唯雪が霏々ひひまた霏々と限りもなく降って居る。ややひさしく眺める。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
看護員は傾聴して、深くそのことばを味ひつつ、黙然として身動きだもせず、やや猶予ためらひてものいはざりき。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こゝに於て王って入り、珙を宮中にきてつばらそうせしむ。珙諦視ていしすることやや久しゅうしていわく、殿下は龍行虎歩りゅうこうこほしたまい、日角にっかく天をさしはさむ、まことに異日太平の天子にておわします。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
叔母に一礼して文三が起上ッて、そこそこに部屋へ戻ッて、しつの中央に突立つったッたままで坐りもせず、やや暫くの間と云うものは造付つくりつけの木偶にんぎょうの如くに黙然としていたが、やがて溜息ためいきと共に
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ややしばらく眺めていると今度は掌がむずゆくなる。一刻の安きをむさぼったあとは、安きおもいを、なお安くするために、裏返して得心したくなる。小野さんは思い切って、封筒を机の上にぎゃくに置いた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まだこれから延びようとする今年竹ことしだけのように、真っ直にして立ち、二人は目と目を見合わせて、やや久しく黙っている。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
川を隔てゝ薄桃色に禿げた雞冠山を眺め、湖水のくくれて川となるあたりに三上山みかみやま蜈蚣むかでい渡る様な瀬田の橋を眺め、月の時を思うてややひさしく立去りかねた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お政が坐舗を出るやいなや、文三は今までの溜涙ためなみだを一時にはらはらと落した。ただそのまま、さしうつむいたままで、ややしばらくの間、起ちも上がらず、身動きもせず、黙念として坐ッていた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
やや有りて予はその燈影なるをたしかめたり。やがて視線の及ぶべき距離にちかづきぬ。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は今この書物の中に、茫然として坐った。ややあって、これほど寐入ねいった自分の意識を強烈にするには、もう少し周囲の物をどうかしなければならぬと、思いながら、室の中をぐるぐる見廻した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お玉は聞いているうちに、顔の色がくちびるまであおくなった。そしてやや久しく黙っていた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
枕にいたのは、ややほど過ぎて、私のうちの職人衆が平時いつもの湯から帰る時分。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「きっとそうよ」と答えながら、暗がりで団扇うちわをはたはた動かした。宗助は何も云わずに、くびを延ばして、ひさしがけの間に細く映る空の色を眺めた。二人はそのまましばらく黙っていたが、ややあって
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ふん」と云って、叔父はややひさしく女姪めいの顔を見ていた。そしてこう云った。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
然しやや少時しばらくは二人とも、口を開かなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やや暫くして小南が又出た。そしてすこぶる荘重な態度で云った。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やや久しい間、只蝉の声がするばかりであった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)