めぐ)” の例文
すなわち現在ソヴェートをめぐる国際関係の緊張によってソヴェート自身も余儀なくされているいわゆる準戦時体制の強化の必要から
政治の論理と人間の論理 (新字新仮名) / 三木清(著)
野をめぐって、それを待っている数千の見物人が、すべてといってよいほど、吉岡清十郎の勝ちを信じているように、城太郎ひとりは
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬琴としては区々世評の如きは褒貶ほうへん共に超越して顧みないでも、たとえば北辰ほくしんその所にいて衆星これをめぐるが如くであるべきである。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
庭にはふじが咲き重つてゐた。築山つきやまめぐつてのぞかれる花畑にはヂキタリスの細いくびの花が夢のほのおのやうに冷たくいく筋もゆらめいてゐた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
私は思つてゐたのとは違つて、島の周囲をめぐる絶壁のかなりに高いのを見た。また、二十五丁の渡合とあひの波のかなりに荒いのを見た。
旅から帰つて (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
ジョセファをめぐるドゥミモンドの女たちの強い身ぶり暮しかた等は、極めて色彩が濃く、忘れようとしても忘れることは不可能である。
バルザックに対する評価 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
飛騨路というのは峰の小屋から路を右手にとり、二の池の岸をめぐって磊々らいらいたる小石の中を下って行くので、みちというべき途はない。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
実はその幾つかを、あるいは縫い、あるいはめぐって、山道を来る途中で、もうちっと前に、多津吉は、この振袖にったのである。
日頃にもない巧名心こうみやうしんあふられて、誰彼れの差別なく捉まへては、お常とお紋をめぐる男の關係など、精一杯に聽き込んでゐたのです。
「柵が結つてあるとおつしやるのは、壽阿彌一人の墓の事ですか。それとも石塔が幾つもあつて、それに柵が結ひめぐらしてあるのですか。」
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
そしてだんだん十字架は窓の正面になりあの苹果りんごの肉のような青じろい環の雲もゆるやかにゆるやかにめぐっているのが見えました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ぼーっとかすみだった湖と、そのそばにぬけ出した鐘塔の右ひだりに、雪をめぐらした山々が、庭の梢の眼のさめるような緑の上に望まれた。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
ところが、ブルンヒルトとなると、その運命がさらに暗く宿命的で、彼女をめぐるものは、みな狂気のような超自然の世界ばかりだ。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「現に出し抜かれているじゃありませんか? 先方むこうは奥さんばかりでなく、御主人まで本気になって、種々いろいろと計略をめぐらすんですから」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
十数畳の大広間片側に金屏風をめぐらし、十四、五の少女一枝の牡丹をり来りてこれを花瓶かびんはさまんとすればしきりにその名を呼ぶ者あり
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
媼は痩せたるひぢさし伸べて、洞門をおほへる蔦蘿つたかづらとばりの如くなるを推し開くに、外面とのもは暗夜なりき。濕りたる濃き霧は四方の山岳をめぐれり。
半生を通してめぐりに繞った憂鬱ゆううつ——言うこともすことも考えることも皆そこから起って来ているかのような、あの名のつけようの無い
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかもこの戦争の影とも見るべき一片の周囲をめぐる者は万歳と云う歓呼の声である。この声がすなわち満洲のに起った咄喊とっかんの反響である。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その屋根裏へ通うのにはアトリエの室内に梯子段はしごだんがついていて、そこを上ると手すりをめぐらした廊下があり、あたかも芝居の桟敷さじきのように
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さうしてそのまはりには、怪しげな鷙鳥が十羽となく、二十羽となく、くちばしを鳴らして紛々と飛びめぐつてゐるのでございまする。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
支那で古く蛟と呼んだは『呂覧』に、佽飛しひ宝剣を得て江を渉る時二蛟その船をはさめぐったので、飛江に入って蛟を刺し殺す。
他の僧徒らまた一顧するや怪しく叫び、期せずして相とらう。たとえば恐怖の流れ狂僧の枯躯こくめぐり、歯がみして向うところを転ずるごとき、間。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
池をめぐるのは粗末な幾軒かの日本建築の喫茶店、芸妓げいしやの手をどり、越後獅子を初め、錦絵、小間物、日光細工、楽焼、饅頭屋、易者などの店である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
河内かふち」は、河からめぐらされている土地をいう。既に人麿の歌に、「たぎつ河内かふち船出ふなでするかも」(巻一・三九)がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
すべてわれらのうち天に歸りたりし者、かの光の上にありてこれをかこめぐりつゝ、千餘の列より己をうつせり 一一二—一一四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
本田家は、それが大正年間の邸宅であろうとは思われないほどな、豪壮な建物とそれをめぐる大庭園と、塀とで隠して静に眠っているように見えた。
乳色の靄 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
岩代耶麻やま郡旧半在家はんざいけ村にも支村阿寺沢がある。四方に山めぐり少しく田畑があり、民家わずかに二戸(新編会津風土記)。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
くねくねした九十九折つづらおりをあちらへめぐり、こちらへ𢌞まわっているうちに、何所どこともなくすざまじい水音みずおとひびいてまいりました。
ちやうど野外劇場式の後ろ高に蜜柑の段畑が円形にめぐつてゐる。その中ほどに私たちは立つて、さうして耳を澄ます。
蜜柑山散策 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
すなはち心得たる体にての唐人に誘はれ行くに、港の入口、山腹の中途に聳え立つ南蛮寺の墓地に近く、薬草の花畑をめぐらしたる一軒の番小舎あり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
竹のまだ青々した建仁寺垣のめぐらされた庭の隅には、松や杜松ひばまじって、ぶち入りの八重の椿つばきが落ちていて、山土のような地面に蒼苔あおごけが生えていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
周囲にはすっかり小さな山々がめぐっていて、それらが数知れぬような木々に覆われているらしいけれど、生憎あいにく月がないので、殆ど何も見わけられない……
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
世界の医学界はこの二個の屍体をめぐる研究論議で、おそらくは今後沸騰するであろうと考えられるのであります。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼方かなたの狐も一生懸命、はたの作物を蹴散けちらして、里のかたへ走りしが、ある人家の外面そとべに、結ひめぐらしたる生垣いけがきを、ひらりおどり越え、家のうちに逃げ入りしにぞ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
さて埴輪はにわ筒形つゝがたのものは、はかをかのまはり、ときにはほり外側そとがは土手どてにも、一重ひとへ二重ふたへあるひは三重みへにも、めぐらされたのであり、またつか頂上ちようじようには家形いへがた
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
そしてその広壮な御殿をめぐった露路のような狭い町に、活動と野心とから遠のいた静穏な生活を続けていた。
御殿の生活 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
みのるは自分一人この暗い寂しい中に取殘されてゐた氣がして早足に墓地をめぐつてゐる茨垣ばらがきの外に出て來た。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
そうして、無言のままに再びそこを出て、家に飼ってある雞籠とりかごのまわりをめぐってゆくかと思うと、籠のうちのにわとりが俄かに物におどろいたように消魂けたたましく叫んだ。
伊東はみちみち、菜の花や水仙などを摘んで丘のすそめぐりながら、遠くに部原へばらの海を見下ろす崖の上へ出た。白っぽい県道が緑の間を抜けて、木橋の上へ出る。
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
昨日は水の面をはつて一望をたゞ有耶無耶うやむやの中に埋めた霧が、今朝はあとも無く晴れて、大湖をめぐる遠い山々の胸や腰のあたりに白雲が搖曳えうえいしてゐるばかりで
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
あゝ横笛、花の如き姿いまいづこにある、菩提樹ぼだいじゆかげ明星みやうじやうひたひらすほとり耆闍窟ぎしやくつうち香烟かうえんひぢめぐるの前、昔の夢をあだと見て、猶ほ我ありしことを思へるや否。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
人間の事つねに「己」をめぐりて成れり、己を去つて人間の活動なし、然るを熱意は往々にして「己」を離れ、身を軽んじて、「他」の為に犠牲とならしむる事あり。
熱意 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
一声の汽笛が高く長く尻を引いて動き出した上野の一番汽車は、見る見るうちに岡の裾をめぐッて、根岸ねぎしに入ッたかと思うと、天王寺の森にその煙も見えなくなッた。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
梧枝里は裕福な村と見える。どの家も相当に大きく、皆一様に花崗岩かこうがんの玉石で築いた塀をめぐらしている。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
家をめぐりてさらさらと私語ささやくごとき物音を翁は耳そばだてて聴きぬ。こはみぞれの音なり。源叔父はしばしこのさびしきを聞入りしが、太息ためいきして家内やうちを見まわしぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そして、その炉の周りには、無造作な造りつけのテーブルと腰掛けとがめぐらされてあった。正勝はその腰掛けの一つに、身体を投げ出すようにして腰を下ろした。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
初詣うひまうでには滝ある方こそ見所はおほかめれとて、彼方かなたにしるべの人ひて出でたつ。谷をめぐりて下りゆく。
岳陰荘がくいんそうと呼び、灰色の壁に這い拡がった蔦葛つたかずらの色も深々と、後方遙かに峨々ががたる剣丸尾けんまるびの怪異な熔岩台地を背負い、前方に山中湖を取めぐる鬱蒼たる樹海をひかえて
闖入者 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
一声いっせいの汽笛が高く長く尻を引いて動き出した上野の一番汽車は、見る見るうちに岡の裾をめぐッて、根岸に入ッたかと思うと、天王寺の森にその煙も見えなくなッた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
今迄はこの山王山をめぐる外廓となつて、下町から来る塵埃ぢんあいを防いでゐた、烈しい生存競争から来る呻り声も、此森林の厚壁に突き当つては、手もなくね返されてゐた
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)