あだ)” の例文
さては相見ての後のたゞちの短きに、戀ひ悲みし永の月日を恨みて三ぱつあだなるなさけを觀ぜし人、おもへばいづれか戀のやつこに非ざるべき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
二条にじょうから半時はんときごとに花時をあだにするなと仕立てる汽車が、今着いたばかりの好男子好女子をことごとく嵐山の花に向って吐き送る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とたしなめられて不承々々、「こうこう夫人おくさまのお声がかりだ。あだおろそかには思うめえぜ、どうしたのだな。え、おい、どこか悪いか。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あだにするようですけれども、それだからと申しまして、わたくしにしてみればこれ以上隠し立てをするわけにはゆきません……
遺書に就て (新字新仮名) / 渡辺温(著)
私の唯一の望みもあだとなり、被告人はまっすぐに、此処でも犯罪を立派に認めたのです。否それはただ認めたというどころではありませぬ。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
それは、わたしの双の手に肖て、あだな足掻きを仕つくして、倦い厳粛のしづもりに返つたといつたありさま。
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
なるほど子の情として親の身を案じてくれる、その点はあだには思はん。お前の心中も察する、意見も解つた。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
得意も非なり失意も非なり、歓ぶさへもあだなれば如何で何事の実在まことならんとぞ承はりおよぶ、無有寃親想むうをんしんさう永脱諸悪趣えいだつしよあくしゆ、所詮は御心を刹那にひるがへして、常生適悦心じやうしやうてきえつしん受楽無窮極じゆらくむきゆうきよく
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
色ある花の一もとを、籬に置くのは気がかりな。床のながめとならぬ間に、どこぞへ移し植ゑたしの、心配りや、気配りも、あだに過ぎるも小半歳。思へば長い秋の夜の、苦労といふはこれ一ツと。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
今日もまた不幸な人達にあだな希望を抱かせるのかと、心が痛んだ。
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
羅馬法皇ろおまほふわうのやうな薔薇ばらの花、世界を祝福する御手みてからき散らし給ふ薔薇ばらの花、羅馬法皇ろおまほふわうのやうな薔薇ばらの花、その金色こんじきしんあかがねづくり、そのあだなるりんの上に、露とむすぶ涙は基督クリスト御歎おんなげき、僞善ぎぜんの花よ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
されども強き手よりして放ちし槍はあだならず、 410
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
あだなり。)かくてかわきてけもやする。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
なべてみなあだなりや、海のおもて
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さほどにかるいものがあだ歡樂たのしみ
また一日をあだに過す……
此春より引きも切らぬ文の、此の二十日計りはそよとだに音なきは、言はでもるき、あだなる戀と思ひ絶えしにあんなれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
道理で来てから帰るまで変なことずくめ、しかし幽霊でもおれ一廉いっかどの世話をしてやったから、あだとは思うまい。何のせいだかあの婦人おんなは、心から可愛かわゆうて不便ふびんでならぬ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて帰りんと頼めし心待も、つひあだなるをさとりし後、さりとも今一度は仮初かりそめにも相見んことを願ひ、又その心の奥には、必ずさばかりの逢瀬あふせは有るべきを、おのれと契りけるに
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
道中にも片足満足な草鞋わらじすてぬくらい倹約つましくして居るに、絹絞きぬしぼり半掛はんがけトつたりともあだに恵む事難し、さりながらあまりの慕わしさ、忘られぬ殊勝さ、かゝる善女ぜんにょ結縁けちえんの良き方便もがな
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いかにおまへのはね黄金こがねの燦きにひらかれるときも、そこには展くによしなく、匂ふにすべもない、あだな影ふかいうれひのみ。このとき、へよ、蜜蜂すがるよ、——もし神あらば燈火あかしをかゝげよ、と。
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
大地を震ふポセードーン其警戒はあだならず、 135
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
頼み入りしあだなるさちひとつだにも、忠心まごゝろありて
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
皆ここにあだの名や、噫、望なし
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
あだなりや
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
あゝ横笛、花の如き姿いまいづこにある、菩提樹ぼだいじゆかげ明星みやうじやうひたひらすほとり耆闍窟ぎしやくつうち香烟かうえんひぢめぐるの前、昔の夢をあだと見て、猶ほ我ありしことを思へるや否。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
たまたま当時にならびなきたっとき智識に知られしを、これ一生の面目とおもうてあだよろこびしも真にはかなきしばしの夢、あらしの風のそよと吹けば丹誠凝らせしあの塔も倒れやせんと疑わるるとは
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
頼み入りしあだなるさちの一つだにも、忠心まごころありて
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
近寄り汝救ふべく彼らの力あだなりき。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
信の夢、——それもあだなり。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
あだなりや
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
たま/\当時にならびなき尊き智識に知られしを、是れ一生の面目とおもふてあだに悦びしも真に果敢無き少時しばしの夢、嵐の風のそよと吹けば丹誠凝らせし彼塔も倒れやせむと疑はるゝとは、ゑゝ腹の立つ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)