)” の例文
編輯者は、私のこんな下手な作品に対しても、わざわざペエジをけて置いて、今か今かと、その到来を待ってくれているのである。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
少女は自働車のまん中にある真鍮しんちゅうの柱につかまったまま、両側の席を見まわした。が、生憎あいにくどちら側にもいている席は一つもない。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どうしたんだろう、急に向うがいちまった。僕は向うへ行くんだ。さよなら。あしたも又来てごらん。又遭えるかも知れないから。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
自分じぶんいえには、これよりは、おおきなきかごのあることがあたまかびました。で、ついこの小鳥ことりあたいをきいてみるになりました。
自由 (新字新仮名) / 小川未明(著)
人々は、なんとかして、ボートの中に、いた場所をみつけて、一命を助かりたいものだと、まるで喧嘩けんかのようなさわぎであった。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「中を調べるなら、ふたをあけてお見せするで、待ってくらっせえ。槍などで樽に穴をけられたら、味噌がえてしまうでねえか」
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだけて見なかつた、最後の一冊を何気なにげなく引つぺがして見ると、本の見返しのいた所に、乱暴にも、鉛筆で一杯何か書いてある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
死骸の前には、いた徳利が三本、恐らく自棄やけに飮んだ上、醉が發してウトウトとしたところを後ろから忍び寄つて突いたものでせう。
フィレンツェ僧正領地の監督者たり、僧正の倚子くことあればその後繼者定まるまで寺院の收入を司り、以て私腹を肥しきといふ
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
売物の十字架だの、墓碑だの、記念碑だので、別の、いた墓地のできている、石工場いしくばのさくのむこうには、何一つ動くものもなかった。
地下道にある阪神マーケットの飾窓ショウウインドのなかで飾人形のように眠っている男は温かそうだと、ふと見れば、飾窓が一ついている。
世相 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
そこにはまた交通巡査のように冷静な猶太ユダヤ人の給仕長があった。通路に屯営とんえいして卓子テーブルくのを狙っている伊太利イタリー人の家族れがあった。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
寝殿の東側になった座敷には桐壺きりつぼかたがいたのであるが、若宮をお伴いして東宮へ参ったあとで、そこはき間になっていて静かだった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
「就職口と言つたところで、何処にも椅子をけて君なぞ待つてるところは無いんだから、自分にもせつせと捜さんければかん。」
「ロチスターさんはいけないつて——新しいお馬車にはあんなにたつぷりきがあるのに。私も連れてくやうにお願ひして、ね、先生。」
女は広巳の気もちをこわばらさないように勤めているように見えた。広巳は一杯の酒をけた。すると少女がもう後をたした。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
家ヲケルノハ大概夕食ノ前カ後デアル。ソノセイカ僕ハ何カ空白ガデキタヨウナさびシサヲ覚エタ。コンナ気持ニナッタヿハメッタニナイ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いているところを見透かしては、十尺ぐらいの空間を直滑降で飛ばし、みきのすぐ前で雪煙りをあげて急停止する。
火曜日の朝ごとに各の身分に応じ隊伍を編み泉水におもむき各その定めの場について夥しく快げにかつしずかにその膀胱ぼうこうくる。
しかし歌劇とか現代劇とか、浪花節なにわぶし芝居とかいった旅芸人は、入れ替わり立ち替わり間断なくやって来て、小屋のく時はほとんどなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
仕事まで時間が少しいていたので、台に固って話し合っている皆の所へ出掛けようとしていると、オヤジがやって来た。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
飼うには重曹とか舎利塩などのような広口の瓶のいたのを利用して、口は紙でおおうてそれに針で沢山の穴をあけて置く。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
飲みあけて、というのは一晩や二晩で飲みけようというのではなく、幾日かかかって飲み空けたら、その樽を花生けにしようというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
でも、こんなに早く、その日の中に役立とうとは彼女は一度だって考えたことはなかった。それほどこの数年来の彼は家をける日が多かった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
女中は洗濯物をしたり居眠りをしたりして、なかなか家をけなかった。それでも時々買物に出かけた。周平はその僅かな機会をも遁さなかった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「いえ、そうしちゃいられないの、まだほかへ廻らなきゃならないから……」とお光は身支度しかけたが、「あの、こないだの写真はいてて?」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
ご存じないのですな。どこかに一つきができて、私がそこへ出かけようとしても、その幽霊には俺がなるという申し込みがたくさんあって困るのです
その時、がらきになったスタンドの最前列の座席(バレラス)に頑張って、土砂降りの中に濡鼠のようになってる一人の紳士と一人の婦人があった。
闘牛 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
女どもを出掛けさせ、慌しく一枚ありあわせの紋のついた羽織を引掛ひっかけ、胸の紐を結びもあえず、あたかいていたので、隣の上段へしょうじたのであった。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それほど、ドイツ自慢の智能部が、ここではこの砂色の頭髪をした一英国人のためにあっさり鼻をかされている。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
この堰の見える落合の窪地に越して来たのは、尾崎翠おざきみどりさんという非常にいい小説を書く女友達が、「ずっと前、私の居た家がいているから来ませんか」
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「うちの網はいつでもいてますよって、お家の病人さんにもちっと取って来て飲ましてあげはったらどうです」
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
おれは併し隣のいた席へ荷物パツケを置いてあとから入つて来る乗客に「これは僕の友達の席です」と云つて拒んだ。
素描 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
今夜はシーツをお代へしようと思つてゐたのにとか、明日は、お望み通りのお部屋がくのにとか、そんなことが、妙に何時いつまでも気にかゝりますんです。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
手のかないときなぞには洗吉さんが使なぞもして下さるし、青木さんでも、二階なぞのはたき掃除や何か、自分でして下さるのでどんなにか助かつてゐる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
信一郎の言ふべきことを、向うで言ひながら、瑠璃子は、信一郎と並んで其処にいてゐた椅子に腰を下した。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
けさせる訳にも行かぬし、まあ、君の都合がわるければ飯島君に、方角は違ふが頼んで見ようと思ふのだが
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
それがために彼が何処かに自分の寝台を据えつけるなり、外套だの身のまわりの品だのを持ちこんだが最後、たといそれまでは人気ひとけのなかったき部屋でも
丁度今、私も手がいたばかし……先刻さつき貴方から電話を掛けて下すつた時院長さんにも伺つて見たんです。
死の床 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「それは困る、我々が通るのにそんなことをしてもらっては人も迷惑する、自分も迷惑する、泊りたい者には部屋のいている限り泊めてやらなくてはならぬ」
巧みにそのきが“絵馬堂”にしくんである、といつたはうが適切であるやうな、すこしのスキもムダも許さない建造への構想に、ぼくは、すくなからず驚いた。
にはかへんろ記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
そうして、半ば無理じいにまさうちを承知させ、いていた現在の家で、こごさと二人の生活を始めた。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
見舞人のような態度で上り込んで、奥の方にいていた特等病室の藁蒲団の上に落ち付いた時であった。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
このぎにはふねくだらう、どうせいつぱいにはかへれまいから、ゆつくりしてかうと、下男げだんにさうつて、煙草たばこをくゆらしてゐると、いつぱいひとせて
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
元来がほとんど武家屋敷ばかりであった所へ、維新の革命で武家というものが皆ほろびてしまったのであるから、そこらには毀れかかったき屋敷が幾らもある。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三階の大きいほうの部屋は、たいていいつもいていた。家主がそれを自分の用に取りのけておいたのである。しかも家主はかつてそこに住んだことがなかった。
耳をすますと、いている掘割の一つが、ちょうど煮えたぎる鉄瓶のような音をたてているようだった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
いている左手をびんへ持って行き、女のくせで、こぼれている毛筋を、きあげるようにいたしましたが、八口やつくちや袖口から、紅色がチラチラこぼれて、男の心持を
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『私此方こつちの爲にしたんぢやなくて、皆さんが盃を欲しさうにして被居いらつしやるからけて上げたのですわ。』
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼がベンチのあたりを離れ、それと出口とのあいだにあるいた場所に近づくか近づかないかのうちに、初めて僧の声を聞いた。力強い、みがきのかかった声である。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)