瓢箪ひょうたん)” の例文
田圃の中の流れの岸で、たった一人で毒死しているとすれば、その原因は、側に転がっている、見事な瓢箪ひょうたんの中味の外はありません。
このような窓は瓢箪ひょうたんを二つ連ねた形であったり、四角であったりすることもあるが、形の如何を問わず、常によい趣味で出来ている。
それに対したのが気軽そうな宗匠振そうじょうぶり朽色くちいろの麻の衣服に、黒絽くろろ十徳じっとくを、これも脱いで、矢張飛ばぬ様に瓢箪ひょうたん重石おもしに据えていた。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
こはいかに、大なる瓢箪ひょうたんであった。中には大きいどじょう五、六匹入りて口をふさいであるために、あたかも生きているように動くのである。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その処を赤い瓢箪ひょうたんの上に小熊を附けた馬印を押し立て、兵五百に先頭して、け抜ける若武者がある。重昌の子主水佐重矩もんどのすけしげのりである。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
鬼ごっこ、子をとろ子とろ、ひな一丁おくれ、釜鬼かまおに、ここは何処どこ細道ほそみちじゃ、かごめかごめ、瓢箪ひょうたんぼっくりこ——そんなことをして遊ぶ。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
普通には扁平へんぺい煎餅せんべいのようなものしかできなかったが、巧者な庫男くらおとこになると是で瓢箪ひょうたん松茸まつたけや、時としてはまた人形なども作り上げた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
嫌だからとて「瓢箪ひょうたん川流かわながれ」のごとく浮世のまにまに流れて行くことはこころざしある者のこころよしとせざるところ、むしろずるところである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その中は、瓢箪ひょうたんを立てたような青い酒壜があった。目賀野はその酒壜の首をつかむと外に出し、もう一方のいた手を戸棚の奥へ差入れた。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
身体からだ瓢箪ひょうたん型になって、触角がズット長くて……おまけにトテモ綺麗ですよ。卵白たまご色と、黒天鵞絨びろうど色のダンダラになって……ホラ……ネ……
髪切虫 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そんな御遠慮にはおよびませぬというとありがとうござりますそれならお言葉にあまえまして聞いていただきますがといってさっきの瓢箪ひょうたん
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あの青い瓢箪ひょうたんり下った隠者の住居のような門を叩くと、岡見がよく蒼ざめた顔付をして自分を迎えてくれたことを思出すことが出来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
女主人公じょしゅじんこうの熊野をつとめた婦人は、このお腰元にくらべていたく品形しなかたちおとっていたので、なぜあの瓢箪ひょうたんのようなのがシテをする。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
江戸ッ子は口の悪いもので、「瓢箪ひょうたん(兵端)の開け初めは冷(火矢)でやる」と川柳があったが、是れでも時の事情は分る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
単に蒐集狂しゅうしゅうきょうという点から見れば、此煙管パイプを飾る人も、さかずきを寄せる人も、瓢箪ひょうたんめる人も、皆同じ興味にられるので、同種類のもののうちで
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もしも温度の影響が大きくその他の微細な雑多の影響が収斂しなかったら、ゼンマイ秤で目方を測るのは瓢箪ひょうたんなまずを捕える以上の難事であろう。
方則について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
往復ハガキで下らない質問の回答を種々の形の瓢箪ひょうたん先生がたに求める雑誌屋の先祖のようなものに、千成瓢箪殿下が成下るところがいささ憫然びんぜんだ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大鯰おおなまず瓢箪ひょうたんからすべり落ち、いのしし梯子はしごからころげ落ちたみたいの言語に絶したぶざまな恰好かっこうであったと後々の里の人たちの笑い草にもなった程で
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
伊右衛門は長兵衛の知せによって中へ入り、やがて腰の瓢箪ひょうたんの酒を出して飲みだした。伊右衛門は娘にきつけられた。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
本土の北の果からでも来たのか、長旅の末にわらじを切らしてはだしになり、青い瓢箪ひょうたんのような足の裏を見せている。
奥の海 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その時のお松は瓢箪ひょうたんへ水を汲みに行ったけれど、今の米友は竹筒を持って行ったことが、違えば違うようなものです。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、瓢箪ひょうたんから駒が出ようと、閣議室から黄龍が出現しようと、支那においては不思議でない。民衆もまた奇蹟を好む。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたかも細い瓢箪ひょうたんを二つならべたごとき形を呈しているが、この瓢箪の前半は嗅神経葉で、後半のみが大脳である。
脳髄の進化 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
彼は一心にそれを見詰めて、その中に日の丸や、青い波や、瓢箪ひょうたんや、竜や、そのほか彼がこれまでに扇面で見たことのあるいろいろの画を想像してみた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
今あるのは猿が瓢箪ひょうたんなまずを押へとる処と、大黒だいこく福禄寿ふくろくじゅの頭へ梯子はしごをかけて月代さかやきつて居る処との二つである。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この前柳沢と一緒に来た時来た瓢箪ひょうたんのような顔をしたさい女が主婦のいったことを伝えて二階に上っていった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それより山男、酒屋半之助方さかやはんのすけかたまいり、五合入程ごういりほど瓢箪ひょうたん差出さしだし、この中に清酒せいしゅお入れなされたくともうし候。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
向嶋も今では瓢箪ひょうたんを下げた風流人の杖を曳く処ではなく、自動車をとばして工場の製作物を見に行く処であろう。
向島 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
瓢箪ひょうたんなど肩にして芸子と番傘の相合傘あいあいがさで帰って来る若い男等が、「ヨウ、勘平猪打ししうちの段か」などゝはやした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
燈籠とうろうやら、いくつにも分岐ぶんきした敷石の道やら、瓢箪ひょうたんなりの——この形は、西洋人なら、何かに似ていると言って、婦人の前には口にさえ出さぬという——池やら
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
かなり高価らしい衣服に、ハイ・ヒールの革草履をはき、金糸の縫いのある帯をしめ、その帯の表面に、細い金鎖でつないだ瓢箪ひょうたん形の真珠がぶらぶら揺れていた。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
婆「何でございますねお前さん、瓢箪ひょうたんを紅葉の枝へ附けてお通んなはいましたねえ、滝の川へいらっしゃったの、御様子のいことゝ云ってお噂をして居たのですよ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
根附は帯へ挟むためですから、滑りのよい形を選ぶので、昔は小さい瓢箪ひょうたんを使ったといわれます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
旧暦の十一月十三日から四十八夜の間瓢箪ひょうたんをたたき空也念仏くうやねんぶつを唱えて歩くもので、極めて卑近なぎょうをして俗衆を教化しようとした空也上人の衣鉢いはつを伝えたものであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
モルダヴィヤ南瓜というやつは、瓢箪ひょうたんとも呼ばれて、ロシアではこれでバラライカを拵らえる。
「阿部はお許しのないを幸いに生きているとみえる、お許しはのうても追腹は切られぬはずがない、阿部の腹の皮は人とは違うとみえる、瓢箪ひょうたんに油でも塗って切ればよいに」
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
瓢箪ひょうたんのような顔の眼の下を真黒にした三下風情さんしたふぜいの男が、しなをつくって、掻きくどいていた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
そのみづちが仏国のドラク同様変遷したものか今日河童を加賀、能登でミヅチ、南部でメドチ、蝦夷えぞでミンツチと呼ぶ由、また越後えちごで河童瓢箪ひょうたんを忌むという(『山島民譚集』八二頁)。
これはチベット語にラクガル・ツォといい英語にレーク・ラカス・タールと言うておる。その湖水の形はちょっと瓢箪ひょうたんのようになっていますが、マナサルワ湖よりはよほど小さい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そこで叔父さんは弁当を出して二人ふたり、草の上に足を投げだして食いはじめた。僕はこの時ほどうまく弁当を食ったことは今までにない。叔父さんは瓢箪ひょうたんを取り出して独酌をはじめた。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
背のかど隅入すみいりで、厚みも多く形もよく、家のしるしなのかこれに瓢箪ひょうたん模様が一個入れてあった。つかもいい。だがそれだけではなかった。今まで見たどの五徳ごとくよりも美しい形のものがあった。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
南に丸沼大尻沼が不恰好な瓢箪ひょうたんの形をして現われる。あたりとは少しも調和しない養魚場の赤い屋根が異様に光っている。北には真黒な針葉樹林に囲まれて鬼怒沼の原が狐色に暖そうだ。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
なかば習慣的に瓢箪ひょうたん池に突出した藤棚の下に行き、何処かでメタン瓦斯ガス発生わくような、陰惨な音を聴きながらぼんやりとして、あくどい色をした各常設館の広告旗が、五彩の暴風雨あらしのように
魔像 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
東洋ほど自然に寵愛ちょうあいされ、自然を原形のまま利用するのを許されている国々にこのくらいな植物は探したら無いことはなかろう。蔓からボットルがぶら下る瓢箪ひょうたん。幹の中に空気の並んだ部屋のある竹。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ある夕方、私たちは小さな瓢箪ひょうたん形の池のある公園をぶらぶらと歩いた。ランニング一枚の子供がエビガニを釣って遊んでいた。かがみこんで私が見ていると、女がふいに「私はブタね」といった。
愛のごとく (新字新仮名) / 山川方夫(著)
奇妙な風体ふうていをして——例えば洋服の上に羽織を引掛けて肩から瓢箪ひょうたんげるというような変梃へんてこ扮装なりをして田舎いなか達磨茶屋だるまぢゃやを遊び廻ったり、印袢纏しるしばんてん弥蔵やぞうをきめ込んで職人の仲間へ入って見たり
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
右端うたんの、不細工な巨石としか見えないチェリスト、オットカール・レヴェズは、そこに半月形のひげでも欲しそうなフックラ膨んだ頬をしていて、体躯たいくの割合には、小さな瓢箪ひょうたん形の頭が載っていた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
亭々ていていと聳える杉林の上は、何時の間にか、いっぱいの黒雲におおわれてのしかかるように暗く、同じように顔をあげた運転手と眼を見合わせ、瓢箪ひょうたんのような顔の沢田が、眉をひそめて口を尖らせたが
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「うかうかと暮らすようでも瓢箪ひょうたんの、胸のあたりにしめくくりあり」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
中で一番記憶に残っているのは細工飴さいくあめの店で、大きな瓢箪ひょうたん橋弁慶はしべんけいなぞを飴でこしらえて、買いに来たものはくじを引かせて、当ったものにそれをるというので、私などもよく買いに行ったものだが
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)