次手ついで)” の例文
次手ついでに岳北の四湖を眺め、青木ヶ原の一端をものぞいて見ようというので、四月八日の午後十一時に田部たなべ君と共に東京駅を出発した。
春の大方山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
基督教、共和政体、機械万能などを罵る次手ついでに、僕の支那服を着たるを見て、「洋服を着ないのは感心だ。只うらむらくは辮髪がない。」
北京日記抄 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
畑の次手ついでに、目の覚めるような真紅まっかたでの花と、かやつりそうと、豆粒ほどな青い桔梗ききょうとを摘んで帰って、硝子杯コップを借りて卓子台ちゃぶだいに活けた。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
次手ついでに云うと、この歌の一つ前に、「あしひきの山椿やまつばき咲く八峰やつを越え鹿しし待つ君がいはづまかも」(巻七・一二六二)というのがある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
今日は去年最後の産物だった「二十三番地」と「追憶」を父が箱根の次手ついでに熱海に居られる坪内さんの所へ持って行って下さる筈になった。
「どうもしないさ。僕は散歩した次手ついで一寸ちよつと寄つたのだよ。まだ夕餐は食べないけどお腹は空かないから何も御馳走しなくつてもいゝよ。」
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
日本橋附近という題目からはやや遠くなるけれども、あの眼鏡橋めがねばし(万世橋)あたりのさまも次手ついでにここに書き残して置きたい。
日本橋附近 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
しかし僕は、いろ/\の種類の客のゴタ/\と集るこの家で、何か次手ついでにさぐりでも入れてゐるのではないかと、そんな小説的な事を考へた。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
に彼は熱海の梅園にて膩汗あぶらあせしぼられし次手ついで悪さを思合せて、憂き目を重ねし宮が不幸を、不愍ふびんとも、いぢらしとも、今更に親心をいたむるなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
姪子甥子おいごの心意気を汲んでみろ、其餅のまずかろう筈があるめい、山百合は花のある時が一番味がえいのだそうだ、利助は、次手ついでがあるからって
姪子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
然し私は話の次手ついでにお得意先の二、三の作家へ、ただまんぜんと、太宰さんのが一ばん評判がよかったのだそうですね位のことはいうかも分りません。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これも次手ついでに伺いたいですが、喜劇役者のチャージン——あのパーヴェル・セミョーヌィチですが
ええ那様そんな事なら訳はないです。それじゃ明朝あしたかく行って、しらべてみて直しますが、そう云う事は長念寺の和尚おしょうところへも行って、次手ついでにおはなしなすったらいでしよう。
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
何か描いた次手ついでに、この次手にこんな物を描いておこうと考えて、そして描いたものを一品々々めておいたのなどが、個人展に並んだら、却って面白かろうと思います。
双語 (新字新仮名) / 上村松園(著)
(略)はちと余計なことなれど同人の昔の境界を存じ居るゆゑ筆次手ついでここに及び候也。(略)
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
手拭てぬぐいと二銭銅貨を男に渡す。片手には今手拭を取った次手ついでに取ったほうきをもう持っている。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
光代は風呂場へ行かうとして浴衣をかかへて立ち上つた次手ついでに、茶の間の電気をパチリとひねつたが、ふと此若い二人の取あはせを見ると、片頬にいたづららしい微笑をうかべた。
水と砂 (新字旧仮名) / 神西清(著)
眼をねむって居ながらも時々細目に開いて、わざとムニャ/\と云いながら、足をバタァリと遣る次手ついでにグルリと寝転ねがえりを打ち、仰向あおむけに成って、横目でジイとお瀧の方へ見当を附けると
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「さうですつてね。で僕も次手ついでだから来いと、今云はれてゐるところです。」
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
此の間、横浜へ寄港した次手ついでに、私たちは貴院の施療部で御厄介になっているラオチャンドを見舞ってやった。彼れは瀕死の病者で、その上、自活費を一銭も持ち合していない貧者であった。
ラ氏の笛 (新字新仮名) / 松永延造(著)
「裏の庭木戸が、昨朝も今朝も開いていたようですが、差支えないのですか」いくらか気掛りだったので次手ついでに訊いて見た。婆さんは鳥渡喫驚したように、まじまじ私の顔を視守っていたが
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
七五郎 娘だって婆あだって次手ついでにやる分には仕方がねえじゃねえか。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「そうか、次手ついでに速達も出して貰おう」
歩む (新字新仮名) / 戸田豊子(著)
それから次手ついでに小説じみた事実談を一つ報告しましょう。もっともわたしは素人しろうとですから、小説になるかどうかはわかりません。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
特筆に値する記事ではないが次手ついでだから紹介したに過ぎない。ただ生類憐愍れんびんのやかましい元禄時代に、死鶴の骨を埋葬したことは首肯される。
マル及ムレについて (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
これをいて二十つた、にしてとをつたとをとこだて澤山たくさんなり。次手ついでに、目刺めざしなし。大小だいせういづれもくしもちゐず、したるは干鰯ひいわしといふ。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえ、もうどう致しまして、この御近辺まで毎々次手ついでがありますのでございますから、その御心配には及びません」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
舊の正月前には、夫婦して餅をきに來て、次手ついでに知人の家を廻つて私の家へ一晩泊つて歸つた。私は異郷の話でも聞くやうに島の樣子を面白く聞いた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
すぐ言葉をついで、『それにしても、今日はめづらしいね……何処かに次手ついででもあつたのかえ?』
ある日 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
それでよいから、次手ついでに、マンドリンの第一の絃を二本持って来て下さいと云ってやる。
一日 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
持ってきて、それから縫掛けのあわせを今日中に仕上げてしまいなさい……。政は立った次手ついでに花をって仏壇へげて下さい。菊はまだ咲かないか、そんなら紫苑しおんでも切ってくれよ
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
寺尾等秩父郡の村々には氷雨塚と称うるものはなはだ多く、大野原には百八塚などいうものあり、また贄川にえがわ、日野あたりには棒神と唱えて雷槌いかずちを安置せるものありと聞きしまま、秩父へ来し次手ついでには
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もう一つ次手ついでに考へられることは作者自身の小説を戯曲に書直す可否である。たとへば菊池は「義民甚兵衛」を小説から戯曲へ書直した。
小説の戯曲化 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
……次手ついでに、おなじ金澤かなざはまち旅宿りよしゆくの、料理人れうりにんいたのであるが、河蝉かはせみもちおそれない。むしらないといつてもい。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
試に其言に従って松本君と味って見る。成程やわらかで甘味があって香気が高い。次手ついでに自分で採集した分まで食べてしまう。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
母は驚き、途方にれたる折しも、かどくるまとどまりて、格子のベルの鳴るは夫の帰来かへりか、次手ついで悪しと胸をとどろかして、直道の肩を揺りうごかしつつ、声を潜めて口早に
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
次手ついでにスヰツチとかタングステンとかいふ文字をも搜したが、それはつひに見付からなかつた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
思ふことがあるよ。さうかツて言つて、わざ/\出かけて行つて見るほどの熱心はないんだがね。何かの次手ついでに、あつちに行つたら逢つて見たいといふやうな気は今でもするよ。
百日紅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
それを思うとお繁さんの居ない今日、岡村に薄遇されたのに少しも無理はない。予も腹のどん底を白状すると、お繁さんから今年一月の年賀状の次手ついでに、今年の夏も是非柏崎へお越しを願いたい。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「一寸廻る分にはいいだろう、次手ついでだもの」
牡丹 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
O君は本職の仕事のあひだにせつせと発句ほつくを作つてゐる。ちよつとO君を写生した次手ついでにそれ等の発句もつけ加へるとすれば——
O君の新秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
指環をめた白い指をツト挙げて、びん後毛おくれげを掻いた次手ついでに、白金プラチナ高彫たかぼりの、翼に金剛石ダイヤちりばめ、目には血膸玉スルウドストンくちばしと爪に緑宝玉エメラルド象嵌ぞうがんした
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
次手ついでに乗鞍岳と御岳の第二回登山とを試みたので、日数や天候に制限され、其上何といっても予備知識の不足が災いして、鎗ヶ岳と地蔵鳳凰の三山には登りそこねたけれども
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
北原白秋きたはらはくしう君のビフテキも、やはり、うまいのに違ひない。宇野浩二うのかうじ君がロオスト・ビフに適してゐることは、前にも何かの次手ついでに書いておいた。
食物として (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
次手ついでにとぼけたのがある。江戸えど掏兒すりは、ひと下駄げたがすとくが、唐人たうじんだけに穿いてくつがされて、あまつさ屋根やねげられた、とふのがひとつ。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ここまで来たならば次手ついでに右手の草原を辿って三国山の頂上まで登るがよい、唯一時間の辛抱であるから。この高さでこの位の雄大な眺望はそうざらにあるとはいえないと思う。
三国山と苗場山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
僕は外套がいとうや帽子を預ける次手ついでに部屋を一つとって貰うことにした。それから或雑誌社へ電話をかけて金のことを相談した。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
次手ついでだから、つぎとまり休屋やすみや膳立ぜんだてを紹介せうかいした。ますしほやき、小蝦こゑびのフライ、玉子焼たまごやきます芙萸ずいきくづかけのわん
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕は外套や帽子を預ける次手ついでに部屋を一つとつて貰ふことにした。それから或雑誌社へ電話をかけて金のことを相談した。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それからもしのお雑巾ざうきん次手ついでにづツぷりおしぼんなすつてくださるとたすかります、途中とちう大変たいへんひましたのでからだ打棄うつちやりたいほど気味きみわるうございますので
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)