あんず)” の例文
あんず巴旦杏はだんきやう。杏は二本とも若木であるが、巴旦杏は本當ならいま實を結ぶわけであつた。花は咲いたが、どうもこの木、枯れるらしい。
たべものの木 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
が、彼の記憶の中には未だに大きい白牛が一頭、花を盛ったあんずの枝の下の柵によった彼を見上げている。しみじみと、懐しそうに。………
材料は、いちじく、あんず金柑きんかん、グレープ・フルーツの皮など、果物はもちろんであるが、その他にも、野菜に重きをおいているそうである。
桃林堂の砂糖づけ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
玄徳がふとを止めて見ていると、その邸の並びのあんずの並木道を今、ひなにはまれな麗人が、白馬に乗って通ってゆくのが見えた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊にナブルスの谷は、清泉処々しよ/\に湧きて、橄欖かんらん無花果いちじゆくあんず、桑、林檎、葡萄、各種野菜など青々と茂り、小川の末にはかはづの音さへ聞こえぬ。
あとで、千種さんもかいで置くといいな——あんずの匂いがしませんか、巴丹杏はたんきょうや、杏仁水きょうじんすいなどと同じような酸味のある匂いです
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そしてそういう秋までには梅、一位いちいあんず、桃が間もない春には、いかに美しく暖かに咲き出るかということを少年は解いた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
それから家のまわりにはあんずや栗の木などもありフミエや洋一はその木々のためにも三太郎おじさんをすきにならずにはいられないほどなのです。
柿の木のある家 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
門の前は一めんに柳がわり、かきの内には桃やあんずの花が盛りで、それに長い竹をあしらってあったが、野の鳥はその中へ来て格傑かっけつと鳴いていた。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
あんずやすももの白い花がき、ついでは木立こだちも草地もまっさおになり、もはや玉髄ぎょくずいの雲のみねが、四方の空をめぐころとなりました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
よく熟れたあんずのような色をして、小山のような火星が、暗黒の宙に浮いているその姿は、凄絶きわまりなき光景だった。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
第六十四 あんずのゼリー 生の杏は煮てその汁ともに裏漉しにします。鑵詰かんづめのものはそのまま汁ともに裏漉しにします。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
工事がとどこおりなく終って、ある日、崔は自分の園中であんずの実を食っている時、俄かに思い出したように言った。
あなたから、この手記の初めに書いた、あんずの実を貰ったのは、その問題があった日の昼のことでしたから——。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
珈琲コーヒー店の軒には花樹が茂り、町に日蔭のある情趣を添えていた。四つ辻の赤いポストも美しく、煙草屋の店にいる娘さえも、あんずのように明るくて可憐かれんであった。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
節句のちまき貰いしが、五把ごわうちささばかりなるが二ツありき。あんず、青梅、すももなど、幼き時は欲しきものよ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よく考えて食い、ゆるゆると味わおうじゃないか。あわてないがいい。春を見たまえ。春も急げば失敗する、すなわち凍る。あまり熱心なのは、桃やあんずを害する。
以前に伊那南殿村の稲葉家(おまんの生家さと)からもらい受けて来たあんずがその年も本家の庭に花をつけたが、あの樹はまだ和助の記憶にあるだろうかと書いた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あまりの事に医師はあきれて暫らく、すところを知らなかったが、やがて彼女を抱き起してその手を除くと、驚いたことに右の下瞼があんずの大きさに腫れ上っていた。
怪談綺談 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
一、花といふ者必ず桜花なるを要せず、梅、桃、すももあんず固より可なり。他季の花を用うるまた可なり。花と言はずして桜といふ固より可なり。各人の適宜に任すべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この八幡の興行でお客様が木戸銭の代わりに干したあんずの袋入りや、カチ栗を風呂敷へ包んだのや、なかにはお芋を持ってやって来るのもあったのにはおどろきましたね。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
信州では、梅、桃、桜、あんずすももといふやうな、春の花がいつときに咲き出すと言はれてゐます。
果物の木の在所 (新字旧仮名) / 津村信夫(著)
ひろ子は、下駄をはいて、あんずの樹の陰から台所へまわった。小枝が、一方に柴木を積み上げた土間にかがんで、茶の間のやりとりに耳を傾けながら馬鈴薯の皮をむいていた。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
朝は時間を云ひ合せて街角で出合つて登校をして、帰りも必ず一緒に校門を出ました。あんずの木の下の空井戸からゐど竹簀たけずの蓋にもたれて昼の休時間は二人で話ばかりして過しました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
声を涸らした老鶯ろうおうが白いあんずの花の間で間延びに経を読んでいる。山国の春の最中もなからしい。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
七月の空はよく晴れてゐて、枝に透いたあんずの実の丸い黄色が、私は、このときほど果実のまるい美しさを見たことがない。そこへ、B29の銀色の羽根がナイフのようにやって来た。
詩集『花電車』序 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
児どもでも老人のようには見えませんか、青いうちに皺の入った瘠地のあんずのように。けて中産階級の児どもは。犬でも鶏でも、どうも私達の国のものは年寄り染みてるらしいのです。
ガルスワーシーの家 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
主人が渋い顔をして居るので、丸髷の婦人は急いで風呂敷包の土産物みやげものを取出し主人夫妻しゅじんふさいの前にならべた。葡萄液一瓶ひとびん、「醗酵はっこうしない真の葡萄汁ぶどうしるです」と男が註を入れた。あんずの缶詰が二個。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
貴方あなた那樣哲學そんなてつがくは、あたゝかあんずはなにほひのする希臘ギリシヤつておつたへなさい、此處こゝでは那樣哲學そんなてつがく氣候きこうひません。いやさうと、わたくしたれかとヂオゲンのはなしましたつけ、貴方あなたとでしたらうか?
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
隣室の医科の男が雪ちゃんに命じてあんずを買って来さして二人で食っていた。
雪ちゃん (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
肺の悪いひとによくあるように、頬があんず色にぼうっと紅らみ、それがえぐい顔のつくりをいっそう印象的なものにしている。勉強家らしく、強度の近眼だと思われるのになぜか、眼鏡をかけていない。
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
徳三郎の優姿やさすがた見初みそめて、顔をあんずのやうにあかくした。
熟したるあんず地に割れゐし朝
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
あんずはあかし、そこここに。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あんず咲くさびしき田舎
閑人詩話 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
「僕は一番はじめにあんずの王様のお城をたづねるよ。そしてお姫様をさらって行ったばけ物を退治するんだ。そんなばけ物がきっとどこかにあるね。」
いてふの実 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その仕事のかたわらにこのあんず夫人がいて、杏夫人は夜になると昼間よりも最っとふくれて見え、藤村はそれを他人に見とれる美しさで見とれていた。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
が、腐敗したあんずの匂に近い死体の臭気は不快だつた。彼の友だちは眉間みけんをひそめ、静かにメスを動かして行つた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
だが、塀ごしのあんずの花は、しとどに散って、送るあるじと、去る客の蓑を、惜しむ行く春のにしらじらといろどった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目白が、チ、チ、と鳴きながら、つぼみの赤らんだあんずの枝を渡り歩いている。とつぜん、お母さんは克子を乳房からはなし、抱きかえて日向の方へその顔をさしむけた。
大根の葉 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
第五十一 あんずのグラスカスター は前の通りなカスターを拵えておいて生の杏ならば砂糖を入れて煮て裏漉しにしたものを大匙に一杯半加えて前の通りに致します。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あんずや、桃を欲しがった時分とは違うて、あんた色気が着いた。それでな、もとのように、小母さん、姉さんは、と言悪いいにくい。ところで、つい、言いそそくれておしまいのであろ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木の実で熟するものには青梅、あんずなどある中に、ことに伊之助に時を感じさせるのは、もはや畦塗あぜぬりのできたと聞く田圃たんぼ道から幼い子供らの見つけて来る木いちごであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、ぼくは今日、ロスアンゼルスで買った記念の財布さいふのなかから、あのとき大洋丸で、あなたに貰った、あんずの実を、とりだし、ここ京城けいじょう陋屋ろうおくもささぬ裏庭にてました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
やがて強盗谷、強盗泉あり。岩壁の下、草地くさぢ数弓すきう、荷を卸して駱駝臥し、人憩ふ。我儕われらの馬も水のみて行く。やがてまた十数頭の駱駝りんを鳴らし驢馬の人これを駆り来るを見る。荷は皆あんず
貴方あなたはそんな哲学てつがくは、あたたかあんずはなにおいのする希臘ギリシヤっておつたえなさい、ここではそんな哲学てつがく気候きこういません。いやそうと、わたくしたれかとジオゲンのはなしをしましたっけ、貴方あなたとでしたろうか?
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あんずの罐を開き、とりの毛をむしり、麺麭パン屋へ駈けつけて、鶏の死骸が無事にパン焼竈やきかまどに納ったのを見届けて駈けもどり、玉菜ぎょくさいをゆで、菠薐草ほうれんそうをすりつぶし、馬鈴薯じゃがいもを揚げ、肉にころもをつけ、その合間には
口取は焼玉子、栄螺さざえ(?)栗、あんず及び青きかん類のたる者。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
落ちしあんずをつつくなり。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あんずの木12・2(夕)