木綿もめん)” の例文
古道具屋のおやじさんは、ひざかけの古けっとの下から、うこん木綿もめんの財布をとりだして、チャラチャラ銅銭の音をさせております。
眠り人形 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
これらの貧乏人に渡るべきはずの木綿もめんの夜具がことごとく分捕って積み重ねてあるかといえば、決してそんなわけのものではない。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
着物は塾に居るときも故郷の母が夏冬なつふゆ手織ており木綿もめんの品をおくっれましたが、ソレを質に置くとえば何時か一度は請還うけかえさなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
時に後ろの方に當り生者必滅しやうじやひつめつ會者定離ゑしやじやうり嗚呼あゝ皆是前世ぜんせ因縁いんえん果報くわはう南無阿彌陀佛と唱ふる聲に安五郎は振返ふりかへり見れば墨染すみぞめの衣に木綿もめん頭巾づきん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もう三十ねんまえになります。わたしがおよめにきたときに、おふとんをつつんできたのですよ。むかし木綿もめんですから、まじりがなくてじょうぶです。
夕雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
夏は木綿もめんを腹へ巻き冬はフランネルを腹へ巻いて寝るのが一番です。睡眠中に腹を冷すと胃や腸を害して急性の下痢げりを起します。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
鼻環はなかんは、木綿もめん針を長さ八分ほどに切り落とし、真んなかを麻糸でくくった撞木しゅもく式。テグスの鈎素はりすへ、鈎を麻で結びつけた鈎付け。
想い出 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
丹女は立って、さながら出陣のそれにも等しく、すべてきよらかな木綿もめんの肌着、腹巻、小袖、細々こまごました旅のものまで、一揃いそこへ運んで来た。
ただ食事のために作った茶碗ちゃわんや食卓、酒のつぼ絵草紙えぞうしや版画の類あるいは手織木綿もめんのきれ類といった如き日常の卑近なるものでありながら
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
赤々と肥った四十恰好の、見るからに元気そうな櫛巻頭に小ザッパリとした木綿もめん着物で、挨拶をする精力的な声が、近所近辺に鳴り響いた。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼女は胸を隠すようになった、白いさら木綿もめんの半襦袢じゅばんを着、そうして腰の二布も緋色でなく、やはり白の晒し木綿に変えた。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
木綿もめんや毛織物の濫用、綾織あやおり木綿はこの国の湿暑に適しなかったと思うが、それをまだ肯定も否定もできぬ程度の、日本の生理学の進歩である。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
足がけツたるいので、づいと伸ばして、寐がへりを打つ、體の下がミシリと鳴ツて、新しい木綿もめんかほりが微に鼻をツた。眼が辛而やつと覺めかかツて來た。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そのすすけた天照大神あまてらすおおみかみと書いた掛物かけものとこの前には小さなランプがついて二まい木綿もめん座布団ざぶとんがさびしくいてあった。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
浴衣ゆかた湯雑巾ゆあがりの略称のみ。湯あみしてあがりたる後にまとふゆゑにしか名づく。いま木綿もめんの単衣をゆかたといふも、つまり湯上りのきぬといふことなり。
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「うむ、まくらおつゝかるやうにつたからえゝこたえゝに」卯平うへいのいふのをきい勘次かんじいくらかほこりもつまたしろ木綿もめんた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
母は奥から、新しいさら木綿もめんを持って来て、再度生にとせ老人に渡した。老人は、綿入れと褌とで、すっかり温かくなったと言って、よろこんで帰って行った。
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
木綿もめんに糸がすこし入っていて私の一番好きな着物です。惜しいけれども仕方が無い。まあ、これは兄さんの方へげる
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もしできれば次に出版するはずの随筆集の表紙にこの木綿もめんを使いたいと思って店員に相談してみたが、古い物をありだけ諸方から拾い集めたのだから
糸車 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ゆうき木綿もめん単衣ひとえに、そろばん絞りの三尺を、腰の下に横ちょに結んで、こいつ、ちょいとした兄哥あにい振りなんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
せ姿のめんやうすご味を帯びて、唯口許くちもとにいひ難き愛敬あいきょうあり、綿銘仙めんめいせんしまがらこまかきあわせ木綿もめんがすりの羽織は着たれどうらは定めし甲斐絹かいきなるべくや
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
母親が徹夜てつやして縫ってくれた木綿もめん三紋みつもんの羽織に新調のメリンスの兵児帯へこおび、車夫は色のあせた毛布けっとうはかまの上にかけて、梶棒かじぼうを上げた。なんとなく胸がおどった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そのチャンチャン坊主の支那兵たちは、木綿もめん綿入わたいれの満洲服に、支那風の木靴きぐつき、赤い珊瑚さんご玉のついた帽子をかぶり、辮髪べんぱつの豚尾を背中に長くたらしていた。
ドーレ。と木綿もめんはかまけた御家来ごけらいが出てましたが当今たゞいまとはちがつて其頃そのころはまだお武家ぶけえらけんがあつて町人抔ちやうにんなど眼下がんか見下みおろしたもので「アヽ何所どこからたい。 ...
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
私の考えでは、村で養蚕ようさんができるなら、百姓はその糸をつむいで仕事着にも絹物きぬものの着物を着て行けばいい。何も町の商人から木綿もめん田舎縞いなかじまや帯を買う必要がない。
その小さな女の子も、じぶんとおなじように、はだしのままで、黒っ茶けた木綿もめん上着うわぎを着ていました。
岡の家 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
三十二銭這入はいっている。白い眼は久留米絣くるめがすりの上からこの蟇口をねらったまま、木綿もめん兵児帯へこおびを乗り越してやっと股倉またぐらへ出た。股倉から下にあるものは空脛からすねばかりだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この綿は、真綿まわた(絹綿)という説とわた木綿もめん・もめん綿)という説とあるが、これは真綿の方であろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
何時ごろだろうと思って彼はすぐ枕許のさらし木綿もめんのカーテンに頭を突っこんで窓の外を覗いてみた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
どの人もみな洋服を着ていましたが、腰に白木綿もめんの上帯を締めて、長い日本刀を携えているのがある。やりを持っているのがある。仕込杖しこみづえをたずさえているのがある。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わが平野謙ひらのけんごとく(彼は僕らの仲間では大愛妻家という定説だ)先日両手をホータイでまき、日本が木綿もめん不足で困っているなどとは想像もできない物々しいホータイだ。
悪妻論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
私は木綿もめん厚司あつしに白いひもの前掛をつけさせられ、朝はおかゆに香の物、昼はばんざいといって野菜の煮たものか蒟蒻こんにゃくの水臭いすまし汁、夜はまた香のものにお茶漬だった。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
天滿與力てんまよりきはそれからけふ木綿もめんものの衣類いるゐ仕立したてさせるやら、大小だいせうこしらへをへるやら、ごた/\と大騷おほさわぎをしたが、但馬守たじまのかみは、キラ/\とつね彼等かれらうへひかつて
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
木綿もめんを晒す石津川いしづがはの清い流もあります。私はこんな所に居て大都会を思ひ、山の渓間たにまのやうな所を思ひ、静かな湖と云ふやうなものに憧憬して大きくなつて行きました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
いろは青く黒し、これをくだけば石綿いしわたいだす。此石をこゝろみしに、石中に石綿いしわたといふものは、木綿もめんわたをほそつむぎたるを二三分ほどにちぎりたるやうなるものなり。
「甲野さん、わしはな、久しくふんどしをしめたことがないから、さら木綿もめんを六尺買わせて下さい。」
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのころ、与一は木綿もめんの掛蒲団一枚と熟柿じゅくしのような、蕎麦殻そばがらのはいった枕を一ツ持っていた。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
汚いシャツに色のさめたこん木綿もめんのズボン、それにゲエトルをだらしなく巻きつけ、地下足袋じかたび蓬髪ほうはつ無帽という姿の父親と、それから、髪は乱れて顔のあちこちにすすがついて
たずねびと (新字新仮名) / 太宰治(著)
おもりの小石と共にしまの木綿もめん風呂敷に包んだ生々しき人間の片足が現れ大騒ぎとなった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いったい衣服きものはなんぼするものかという質問に対しては何人なんぴと一口ひとくちに答えかねる。なぜなれば衣服きものにも単衣ひとえあり綿衣わたいれあり、木綿もめん物もあれば絹織物もある。和服もあれば洋服もある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
第八 衣服いふく精粗美惡よしあしひと分限ぶんげんるといへども、肌着はだぎ木綿もめんフラン子ルをよしとす。蒲團ふとん中心なかわたあたらしくかはきたるものをたつとゆゑに、綿花わたかぎらずかま穗苗藁ほわら其外そのほかやわらかかはきたるものをえらぶべし。
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
「ハア、——老母おつかさんも——」と、嫣然えんぜんとして上り来れるお花は、かしら無雑作むざふさ束髪そくはつに、木綿もめんころも、キリヽ着なしたる所、ほとんど新春野屋の花吉はなきちの影を止めず、「大和おほわさんは学校——左様さうですか、 ...
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
昼間飲んだ酒に肥ったおのが身を持てあましていると見えて、真岡もうか木綿もめん浴衣ゆかたに、細帯をだらしなく締めたまま西瓜すいかをならべたような乳房もあらわに、ところ狭きまで長々と寝そべっている姿が
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
体の下には朽葉が木綿もめんの厚い蒲団を敷いたように柔かく積み重なっていて、突いた手に力が入らなかった。彼は注意して起きながら、この朽葉の上へ墜ちたから怪我もしなかったのだと思った。
陳宝祠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
代々かたわ者と生まれて乞食す、山中の猿とはこの者と、六月二十六日上洛じょうらく取り紛れ半ば、かの者の事思い出で、木綿もめん二十反手ずから取り出し猿に下され、この半分にて処の者隣家に小屋をさし
英語の先生に通称カトレットという三十歳ぐらいの人があった、この先生は若いに似ずいつも和服に木綿もめんのはかまをはいている、先生の発音はおそろしく旧式なもので生徒はみんな不服であった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
住持じゅうじといっても木綿もめん法衣ころもたすきを掛けて芋畑いもばたけ麦畑で肥柄杓こえびしゃくを振廻すような気の置けないやつ、それとその弟子の二歳坊主にさいぼうずがおるきりだから、日に二十銭か三十銭も出したら寺へ泊めてもくれるだろう。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
市は綺麗きれいな石川の岸に沿うた小さな空地に開かれていた。川岸の小石の上に色々な品物や人が並んでいる。一面の緑の平野の中に、ぽつんと此処だけはにぎわしい。ここは有名な多侍木綿もめんの産地と聞く。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
が、そういう店を控えて、牀几しょうぎに腰をかけている老売卜者の、姿や顔というものは、いっそうによごれて褪せていた。黒の木綿もめんの紋付きの羽織、同じく黒の木綿の衣裳、茶縞ちゃしまの小倉のよれよれの小袴。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
子供たちはもちろん和服で、みな木綿もめんはかまをはいていた。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)