あした)” の例文
しかるに形躯けいく変幻へんげんし、そう依附いふし、てんくもり雨湿うるおうの、月落ちしん横たわるのあしたうつばりうそぶいて声あり。其のしつうかがえどもることなし。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
配所のあしたは相変らず早い。良人おっとが日課の読経をつとめている間、新妻は、居室を清掃し、釜殿かまどのにまで出て、いそいそ立ち働いていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うやまひをもて汝の姿容すがたかたちを飾れ、さらば天使よろこびて我等を上に導かむ、この日再びあしたとならざることをおもへ。 八二—八四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
文覚が袈裟を害したるは実に彼の心機を開発したるものなり、蓮花蕾を破りて玉女泥中に現れたるは、実にこのあしたなり。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
今日までみとどまっている士族は少なかった。昔は家から家へと続いたものであるが、今はあしたの星のように畠と畠の間に一軒二軒と残っている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
熊楠つつしんでかんがうるに、古エジプト人は日神ウンを兎頭人身とす、これ太陽あしたに天に昇るを兎の蹶起けっきするに比したんじゃ(バッジ『埃及諸神譜ゼ・ブック・オブ・ゼ・エジプシアンス』巻一)
古人が「女子ト小人ハ養ヒ難シ」と言ったのは、牝鶏ひんけいあしたすることを固く戒めたのも、今となって、神尾主膳にはひしと思い当る、現にあのお絹だ——
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのあした横雲白よこぐもしろ明方あけがたの空に半輪の残月を懸けたり。一番列車を取らんと上野に向ふくるまの上なる貫一は、この暁の眺矚ながめうたれて、覚えず悚然しようぜんたる者ありき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それから、第二の色紙には、東洋の聖人孔夫子の訓戒語「あしたに道を聞く、ゆうべに死すとも可なり」を書いた。
ペンクラブと芸術院 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
あしたほしをいただいてで、ゆうべに月を踏んで帰るその辛苦しんくも国家のためなりと思ってあまんずればよいが、なかなか普通人情としてあまんじてのみいるものでない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それも家族の糊口ここうしのぐ汗多き働きである。一人の作ではなく、一家の者たちは挙げて皆この仕事に当る。あしたゆうべも、暑き折も寒き折も、忙しい仕事に日は暮れる。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あしたに金光をちりばめし満目まんもくの雪、ゆうべには濁水じょくすいして河海かかいに落滅す。今宵こんしょう銀燭をつらねし栄耀えいようの花、暁には塵芥じんかいとなつて泥土にす。三界は波上のもん、一生は空裡くうりの虹とかや。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今日ではあしたに一つ道を聞いただけでは夕べに死ぬ気には容易になれぬ、と云わねばならぬ。
現代日本の思想対立 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
毎日まいにち/\あしたほしいたゞいて大佐等たいさらともいへで、終日しうじつ海底かいてい造船所ざうせんじよなか汗水あせみづながして、夕暮ゆふぐれしづかな海岸かいがんかへつてると、日出雄少年ひでをせうねん猛犬まうけん稻妻いなづまとは屹度きつと途中とちうまでむかへ
勿論ただ牝鶏ひんけいあしたするのではなしに、或る範囲の承認せられたる任務があったのである。古代日本人の間においては、女は一段と神に近くまた一段と祖先の霊に親しいものと認められていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
イエスの復活し給うたあした! すばらしい朝が人類の歴史に明けたのです。
因業いんごうな恥知らずのお茶飲みで、二十年間も食事を薄くするにただこの魔力ある植物の振り出しをもってした。そして茶をもって夕べを楽しみ、茶をもって真夜中を慰め、茶をもってあしたを迎えた。」
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
六一臣として君をつすら、天に応じ民ののぞみにしたがへば、六二しう八百年の創業さうげふとなるものを、まして六三しるべきくらゐある身にて、六四牝鶏ひんけいあしたするを取つてかはらんに、道を失ふといふべからず。
ユフカ村は、今、ようようあしたの眠りからさめたばかりだった。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
もろこしの書にも「あしたに呉客を送り、夕べに越客を迎う」
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
いとさはらかに青みたるあしためざめ、見かへれば
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「星別れむとするあした」である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
まだ明けやらぬあしたのけはひを
菊の色えんいまだこのあした
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四月のあした
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
こうして、あしたになると彼は綿のごとく疲れ果てたであろう身に、また水をかぶって、病をなげうち、終日、軍務を見ていたという。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわんやこの清平の世、坦蕩たんとうの時においておや。而るに形躯けいくを変幻し、草木に依附いふし、天くもり雨湿うるおうの夜、月落ちしん横たわるのあしたうつばりうそぶいて声あり。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
聴ゐる貫一は露のあしたの草の如く仰ぎず。語りをはれども猶仰ぎ視ず、如何いかにと問るるにも仰ぎ視ざるなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
大佐たいさ少年せうねん其他そのほか三十有餘名いうよめい水兵等すいへいら趣味しゆみある日常にちじやう生活せいくわつのさま/″\、あしたにはほしいたゞいてき、ゆふべにはつきんでかへる、その職務しよくむ餘暇よかには、むつまじき茶話會ちやわくわい面白おもしろ端艇競漕たんていきようそう
発戸ほっとの右に下村君しもむらぎみつつみ名村なむらなどという小字こあざがあった、藁葺屋根わらぶきやねあしたの星のように散らばっているが、ここでは利根川は少し北にかたよって流れているので、土手に行くまでにかなりある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それは貴賤の別なく、貧富の差なく、凡ての衆生しゅじょう伴侶はんりょである。これに守られずば日々を送ることが出来ぬ。あしたも夕べも品々に囲まれて暮れる。それは私たちの心を柔らげようとの贈物ではないか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それは呉の国外にまで聞えている喬家きょうけの二女を銅雀台において、花のあした、月の夕べ、そばにおいて眺めたいという野心です。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨日きのふまでは經廻へめぐ旅路たびいくときたのしきときかたらふひととては一人ひとりもなく、あした明星めうぜうすゞしきひかりのぞみ、ゆふべ晩照ゆふやけ華美はなやかなる景色けしきながむるにもたゞ一人ひとりわれ吾心わがこゝろなぐさむるのみであつたが
それは貴賤きせんの別なく、貧富の差なく、すべての衆生しゅじょう伴侶はんりょである。これに守られずば日々を送ることができぬ。あしたも夕べも品々に囲まれて暮れる。それは私たちの心を柔らげようとの贈物ではないか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あした喜鵲きじゃくを占う
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しがないやもめの船頭には、一国の宰相の死よりは、夕方の酒の桝目ますめと、あしたの米の値のほうが、遥かに実際には強くひびく。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その大列は、蟻の如く、根気よく野を進み、山をめぐり、河を渡り、悠々あしたは霧のまだきに立ち、夕べは落日に停って、北へ北へ移動して行った。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふっと、しょくは吹き消された。けれどまもなく、遠くの鶏鳴と、しとみ明かりに、待たぬあしたが、白々と近づいていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「仰せには、こうしてあしたを待つよりは、いっそ夜明けぬまに峠を越えて、柏原かしわばらへ急いではとのおことばだが」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのよいから昏々こんこんとして、遂に、彼の七十八歳の生涯は、雪ふかい柳生谷のあした、静かに終りを告げた。いやその遺業に悠久を約して大往生をとげたものと云えよう。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元日のあしたまでお待ち遊ばせ。わたくしはその前に老母の許へ行って告げましょう。元日のあした、朝賀のため、江のほとりに出て、先祖をおまつりして参りますと——。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
桶狭間おけはざまへ御出陣のあした、わが君が舞ってお立ちなされたという小謡こうたい。これから貧しきわれらの若夫婦が、世の中へ出る門立ちにも、満ざらふさわしくないこともなかろうが」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば、一家の営みを見ましても奴婢ぬひがおれば、は出でて田を耕し、は内にあってあわかしぐ。——鶏はあしたを告げ、犬は盗人の番をし、牛は重きを負い、馬は遠きに行く。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ夜のような冬のあしただが、彼はここに屏居へいきょいらい、朝々のそれを欠かしたことはない。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両軍が山崎に会して、このあしたを、生の日か死の日かと期して相対峙あいたいじしたとき、秀吉から光秀へ「戦書」を送ったとも伝えられているが、果たして、そういう余裕があったかどうか。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あしたにはきょう死ぬかと思い、夕べとなれば明日あすはとちかい、明けても暮れても、慾といえば死に花を如何にとしか考えられぬ者にとっては、またなき耳の楽しみ、はらわたの薬でござる。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世はあしたに夕べも分らない乱脈さだった。どこのたれがいつ仮面をぬぎ、またいつ寝返るやらも計りしれない。勝敗も一朝いっちょうには信じられず、人間同士もすべて狐たぬきの化かしあいだ。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを、日本の史に照らすと、わがちょうでは、鳥羽、崇徳すとく天皇の下に、不遇な武者どもを代表していた平忠盛ただもりや清盛などが、やがての平家時代を招きおこそうとしていた時代のあしたにあたっている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「い、いいえ。もう、おいとまを。……あしたの旅じたくもございますから」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして日々、あしたは未明から、夕方は星のみえる頃まで、武蔵と伊織とが、孜々ししとして、法典ヶ原の一角から開墾に従事していると、時折、河原の向うに、通りがかりの土民たちが立ち止って
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)