小走こばし)” の例文
件の僧は暫したゝずみて訝しげに見送れば、焚きこめし異香いきやう、吹きる風に時ならぬ春を匂はするに、俄にいまはしげにかほそむけて小走こばしりに立ち去りぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
『それともおへおでなさいましてですか、お座敷ざしきにはらつしやいませんですよ。』と小走こばしりにいてる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
九月×日 馬の脚を自由に制御せいぎょすることは確かに馬術よりも困難である。俺は今日午休ひるやすみ前に急ぎの用を言いつけられたから、小走こばしりに梯子段はしごだんを走り下りた。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「おやそんぢやでもねぎすこしもあげあんせう」みなみ女房にようばうはいつて桑畑くはばたけ小徑こみち小走こばしりにけてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
藤吉とうきちは、万年青おもとから掃除そうじふではなすと、そのままはぎすそまわって、小走こばしりにおもてへった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
油断のない、気配りをしながら、一人の仲間態ちゅうげんていの男が、ふもとから小走こばしッこくけ上がってきた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このとき、となりとしとった女房にょうぼうが、粉雪こなゆきのちらちらかぜなかを、前垂まえだれをあたまからかぶって小走こばしりにやってきました。そして、まどしたのすぐおくさまのしたって、ちいさなこえ
奥さまと女乞食 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あたりをかまはず橋板はしいたの上に吾妻下駄あづまげたならひゞきがして、小走こばしりに突然とつぜんいとがかけ寄つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
キャラコさんは、なつかしさに耐えられなくなって、小走こばしりしながら、蘆の間へ入ってゆくと、佐伯氏は木笛フリュートを吹いたまま、いつものように、すこし身をすさらせて、キャラコさんの席をつくった。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そして二人は青年紳士の後を追って小走こばしった。
秘密の風景画 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
打附うちつけごころ、小走こばしりにふとはすれど
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
人人ひとびとの中をけて小走こばしりに
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しやけさげて小走こばしりの
霜夜 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
なにならんと小走こばしりしてすゝりつ一枝ひとえだ手折たをりて一りんしうりんれかざしてるも機嫌取きげんとりなりたがひこゝろぞしらず畔道あぜみちづたひ行返ゆきかへりてあそともなくくらとりかへゆふべのそら雲水くもみづそう一人ひとりたゝく月下げつかもん何方いづこ浦山うらやましのうへやと見送みをくればかへるかさのはづれ兩女ふたりひとしくヲヽとさけびぬ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
小走こばしりに駆けて来ると、道のほど一ちょうらず、ならび三十ばかり、山手やまての方に一軒の古家ふるいえがある、ちょう其処そこで、うさぎのやうにねたはずみに、こいしつまずいてはたと倒れたのである。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さて両国橋納涼の群集と屋形船やかたぶね屋根船の往来ゆきき(中巻第三図)を見てすぐれば、第四図は新柳橋に夕立降りそそぎて、なまめかしき女三人袖吹き払ふ雨風に傘をつぼめ跣足はだしすそを乱して小走こばしりに急げば
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おつぎはしろ襦袢じゆばんえりのぞかせて、單衣ひとへむねをきちんとあはせて、さうしてたすき手刺てさしとでかためて、あついのにもかゝはらずをんな節制たしなみうしなはなかつた。おつぎは蕎麥そばはなして小走こばしりにけてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
とすた/\小走こばしりにけてて、背後うしろからたもと引留ひきとめた、山稼やまかせぎのわかをとこがあつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
にやねえが、ぢいがなつたつけな、おとつゝあ」さういつておつぎは小走こばしりに卯平うへい小屋こやつた。先刻さつきまでえなかつた卯平うへい何處どこからかへつてたかむつゝりとしてひとり煙管きせるかんた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
小走こばしりの下駄げたの音。がらりと今度こそ格子がいた。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)