大尽だいじん)” の例文
旧字:大盡
「兄さんの耳へはえるわけは、なえじゃないか。近郷切ってのお大尽だいじん様で、立っとるんだもん。兄さんの耳へ入れる奴がどこにある?」
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「貧乏性だわねえ、あんたは。今日は黄道吉日こうどうきちにちでしょ。お大尽だいじんの仕立て物には、ち祝いということをするもンなのよ、知らない?」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このまち大尽だいじんのお使つかいでまいったものです。ちょっと大尽だいじんがおにかかっておはなししたいことがあるからいらっしてくださるように。」
港に着いた黒んぼ (新字新仮名) / 小川未明(著)
土地の大地主で、数多たくさんの借家を持ち、それで、住宅すまい向前むこうに酒や醤油の店を持っている広栄の家は、鮫洲さめず大尽だいじんとして通っていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
後に、春の絵の本を見たら、香字という大尽だいじんに張りあう高総という大尽のことがあった。それも多分「丸八」のはなしだとかきいていた。
一日かかって銭二十五文に売って帰るが、これは伊勢町の月夜の利左という大尽だいじんであったというから、元禄時代から江戸にも餌屋があった。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
江之島見物に行くらしい大尽だいじん、それよりいかめしく感じられるのは、槍を立て馬に乗り供人多数に、囲まれて行く大身のお武家。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
五丁町ごちょうまちはじなり、吉原よしわらの名折れなり」という動機のもとに、吉原の遊女は「野暮な大尽だいじんなどは幾度もはねつけ」たのである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
といっている。近松の心中物しんじゅうものを見ても分るではないか。傾城けいせいの誠が金でつらを張る圧制な大尽だいじんに解釈されようはずはない。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こういうわけですから、有野村の大尽だいじんが京大阪へ向けて旅立ちをなされたという評判は、どこからも立ちませんでした。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
昔から世間にくあるならいで、田舎のお大尽だいじんを罠に掛ける酌婦の紋切形であろう位に、極めて単純に解釈していた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そんなら、彼ら大尽だいじん地租ちそもくもとに多額の負担ありやとたずぬれば、彼らの園邸えんていは宅地にあらずして、山林と登録とうろくしてあるから、税率もはなはだ少ない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
と三百円の金を請取うけとり、前に春見から返して貰った百円の金もあるので、又作は急に大尽だいじんに成りましたから、心勇んで其の死骸をかつぎ出し、荷足船にたりぶねに載せ
妻が女児の一人にそのうちをきいたら、小さな彼女は胸を突出し傲然ごうぜんとして「大尽だいじんさんのうちだよゥ」と答えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その頃、銀座さんととなうる化粧問屋の大尽だいじんがあって、あらたに、「仙牡丹せんぼたん」という白粉おしろいを製し、これが大当りに当った、祝と披露を、枕橋まくらばし八百松やおまつで催した事がある。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若い時分には、あくせく稼いで一と身代こしらえたこともあったが、邑内に品評会のあった年大尽だいじん遊びをしたり博打ばくちをうったりして、三日三晩ですっからかんになってしまった。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
自分はあずまの田舎大尽だいじんごとくすべて鷹揚おうように最上等の宿舎に泊り、毎日のんきに京の見物、日頃ひごろけちくさくため込んだのも今日この日のためらしく、惜しげも無く金銀をまき散らし
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
今の下宿にはういふ事が起つた。半月程前、一人の男を供に連れて、下高井の地方から出て来た大日向おほひなたといふ大尽だいじん、飯山病院へ入院の為とあつて、暫時しばらく腰掛に泊つて居たことがある。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
殊にお辰は叔父おじさえなくば大尽だいじんにも望まれて有福ゆうふくに世を送るべし、人は人、我は我の思わくありと決定けつじょうし、置手紙にお辰少許すこしばかりの恩をかせ御身おんみめとらんなどするいやしき心は露持たぬ由をしたた
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大藤おほふぢ大尽だいじんが息子と聞きしに野沢の桂次けいじ了簡りようけんの清くない奴、何処どこやらの割前を人に背負せよはせて逃げをつたなどとかふいふうわさがあとあとに残らぬやう、郵便為替にて証書面のとほりお送り申候へども
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
堀尾家は村一番のお大尽だいじんだ。好い庭を持っている。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
古代更紗で大尽だいじん遊び5・3(夕)
「よう、お大尽だいじん御来駕ごらいが!」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「へん、ここをどこだ」声をおとして、「ここは鮫洲さめずのお大尽だいじんのおやしきさ、お邸と知って、奥さまをもらいに来てるのだが、てめえはなんだ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかし妙なもので、散所ノ長者の顔にあると、瘤までが、この豪勢なお大尽だいじんの福相には、あっておかしくないもののように見える。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むすめは、まったく、たびひとにだまされたのでありました。なるほど、いってみると、そのうちは、むら大尽だいじんであります。
海ぼたる (新字新仮名) / 小川未明(著)
道庵も少しばかり悄気しょげてきました。これは馬鹿囃子だけでは追付かない、何かほかに一思案と思っているうちに、大尽だいじんの屋敷の園遊会の当日となりました。
そして焼けた後しばらくは、近くに馬小屋とかがあって、馬丁のいたその一間ひとまに、石橋様というお大尽だいじんも、お嬢様たちも住んでいられたようであったというのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
此方こちらうちは貴方のお家より、余程よっぽど大尽だいじんですから、召物めしものでもお腰のものでも結構なのが沢山ありますよ
かるがゆえに君子は庖厨ほうちゅうを遠ざく……こりゃ分るまいが、大尽だいじんは茶屋のかまえおおきからんことを望むのだとね。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私がね、誰かのはつのお節句のおり、神田へ買ものにゆきますとね、前の方に、いきな女たちにとりまかれて賑かにゆく人がありますのでね、おやおや、何処どこ大尽だいじんかと見ますとね。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
長左衛門も新兵衛も土地では札付きの悪党であったらしい。今から十三年前に二人は共謀して隣り村の或る大尽だいじんの家へ押し込みにはいって、主人夫婦と娘とをむごたらしく斬り殺した。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と残りくまなくほめられて流石さすがに思慮分別を失い、天下のお大尽だいじんとは私の事かも知れないと思い込み、次第に大胆になって豪遊を試み、金というものは使うためにあるものだ、使ってしまえ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いよいよそうなら忍び込み、奪い取って一かま起こし、もうその後は足を洗い、あの米八でも側へ引き付け、大尽だいじんぐらし栄耀栄華、ううん、こいつあ途方もねえ、偉い幸運にぶつかるかもしれねえ。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「おい、何時いつまで黙ってるのだ、しびれがきれるぜ、御主人、鮫洲さめず大尽だいじん君、女をくれるか、いやか、返事をしてくれないのか」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
やがて雷横の前へ盆が廻ってくると白玉喬は、いちだん愛想よく腰をかがめ、残り物には福、お大尽だいじん様は総括そうくくり、ヘイ一つおはずみをとうながした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あねは、これまでこんなことをいったものが、幾人いくにんもありましたから、またかとおもいましたが、その大尽だいじんというのは、こえている大金持おおがねもちだけに
港に着いた黒んぼ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ず島へ船が着きますると、附添の役人は神着村こうづきむら大尽だいじん佐治右衞門さじうえもんへ泊るのが例でございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
資産かねのあるにまかせて、堀留から蠣殻町まで、最も殷賑いんしんな人形町通りを、取りまき出入りの者を引きしたがえて、くるわのなかを、大尽だいじん客がそぞめかすように、日ごとの芝居茶屋通いで
前に幸内の行方ゆくえが今以て知れないところへ、今またお銀様とお君との行方が知れなくなったということは、伊太夫はじめ、この大尽だいじんの家の一家と出入りの者を驚かせずにはおきません。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
並んでいる木菟みみずくにも、ふらふらと魂が入ったから、羽ばたいて飛出したと——お大尽だいじんづきあいは馴れていなさるだろうから、一つ、切符で見ようじゃありませんか、というと、……嬉しい
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いくら佐野のお大尽だいじんさまでも、こうなりゃあ腕づくだ。腕で来い」
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「一度にお大尽だいじんになるんだとよ」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あねは、それから程経ほどへて、大尽だいじん屋敷やしきからもどってきました。おもったより、たいへんに時間じかんがたったので、おとうとはどうしたろうと心配しんぱいしてきたのであります。
港に着いた黒んぼ (新字新仮名) / 小川未明(著)
道を廻って、二人は山腹の豪勢なお大尽だいじんやしきの門を叩いた。まだほの暗い早朝だ。荘丁いえのこらは渋い目をこすッて何かと出て来る。もう旦那もやがてあとから現われた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「菊家へこうよ、私がお客で。大したお大尽だいじんだわね、お小遣を持扱もちあつかって。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
衣装なり常着ふだんぎだからくはございませんが、なれども村方でも大尽だいじんの娘と思うこしらえ、一人付添って来たのは肩の張ったおしりの大きな下婢おんなふとっちょうで赤ら顔、手織ており単衣ひとえ紫中形むらさきちゅうがた腹合はらあわせの帯
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
土地の大尽だいじんを踏み台にして身請みうけをされて、そこから松蔵のところへ逃げ込んで、小一年も一緒に仲よく暮らしているうちに、男は詮議がだんだんむずかしくなって来たので、女にも因果をふくめて
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「めっそうな! 大尽だいじんのお墨附! めっそうな」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところが、やみ物資ぶっしもなくなると、たちまちかねもうけのみちがとだえて、にわか大尽だいじんは、またむかしのようなまるはだかとなって、もうこっとうひんなどうものがなくなる。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)