唐草からくさ)” の例文
銘仙の紺絣こんがすりに、唐草からくさ模様の一重帯を締めて、この前とはまるで違った服装なりをしているので、一目見た代助には、新らしい感じがした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんな時の彼の心持は、ただ一人で監禁された時には、無心で一途いちづ唐草からくさ模様を描きふけるものだといふ狂気の画家たちによほどよく似て居た。
見るとスウトケイスや、唐草からくさ模様の風呂敷包ふろしきづつみなどが、大小幾つとなくすみの方に積まれ、今着いたばかりだというふうだった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
当座の物をひとりでこそこそと取りまとめ、唐草からくさの風呂敷包にくくって、三十分ばかり皆と話してから兵庫の家へ帰って行った。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
得物は脇差で、納戸の中には唐草からくさ模樣の大風呂敷が、鮮血にひたされて落ちて居る切り、何の證據も手掛りもありません。
何処どこ唐草からくさ精霊ばけものかといやになったる心には悪口もうかきたるに、今は何を着すべしとも思いいだせず工夫錬り練り刀をぎぬ。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その身には大名の奥方の着るような打掛うちかけを着て、裾を長く引いておりました。その打掛は、縮緬ちりめんに桐に唐草からくさぬいのある見事なものでありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ずっと赤いれんが塀がつづき、その中ほどのこけのはえた石の門に、唐草からくさもようになった鉄のとびらがしまっています。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
唐草からくさ模様のついた鉄の扉に凭れて、父と母が出て来るのを待った。「オンバラジャア、ユウセイソワカ」私は、鉄の棒を握って、何となく空にいのった。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
五色ごしきのシナ縮緬ちりめん捲立まきたてられた柱もあれば、またある大きな柱は赤地に青と白との唐草からくさ模様の羅紗らしゃで捲立ててある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
意次の前に椅子に腰かけ、しばらくの間は何んともいわず、貝十郎は俯向うつむいた眼で、床に敷いてある唐草からくさ模様の、マドリッド産らしい敷き物を見詰めた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
第一、莨盆たばこぼん蒔絵まきえなどが、黒地にきん唐草からくさわせていると、その細いつるや葉がどうも気になって仕方がない。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし平瓦ひらがはらのちには唐草からくさなどがかざりにつけてあるところでありますから、これを唐草瓦からくさがはらといひますが、そのはしにはたいてい模樣もようがつけてありませんでした。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
金物の彫りの方では、唐草からくさ地彫じぼり、唐草彫り、つる彫り、コックイ(極印ごくいん)蔓などで地はいずれも七子ななこです。
お民は待ち受ける客人のためにして置いた唐草からくさ模様の蒲団ふとんを取り込みに、西側の廊下の方へ行った。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と言う、自分の湯呑ゆのみで、いかにも客の分といっては茶碗一つ無いらしい。いや、粗いどころか冥加みょうが至極。も一つ唐草からくさすかし模様の、硝子ビイドロの水呑が俯向うつむけに出ていて
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また、奈良朝以前から見られる唐草からくさ模様は蕨手わらびでに巻曲した線を有するため、天平てんぴょう時代の唐花からはな模様も大体曲線から成立しているため、「いき」とは甚だ縁遠いものである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
ところがそれはいちめん黒い唐草からくさのような模様の中に、おかしな十ばかりの字を印刷したものでだまって見ていると何だかその中へ吸いまれてしまうような気がするのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
突然ち上って、やけに箪笥の抽斗をあけて、中から唐草からくさ模様の五布風呂敷いつのふろしきを取り出してそこに積み重ねていた衣類をそれに包んだうえに、またがちゃがちゃと箪笥を引き出して
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
おつまは失意の女として、三十間堀さんじゅっけんぼりのある家の二階から、並木の柳の葉かげ越しに、お鯉が嫁入りの、十三荷の唐草からくさの青いゆたんをかけた荷物を、見送っていたのだときいている。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
こんなことも言いながら、源氏は末摘花すえつむはなの着料に柳の色の織物に、上品な唐草からくさの織られてあるのを選んで、それが艶な感じのする物であったから、人知れず微笑ほほえまれるのであった。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その小石を指輪にして美しい加工をその周囲に施したのを、パリである友人の指に私は発見したことがあった。赭色と、フランス金の黄色と、その唐草からくさ模様はよき調子を持っていた。
風にあらで小忌をみころも漣立さゞなみたち、持ち給へる珠數震ひゆらぎてさら/\と音するに瀧口かうべもたげて、小松殿の御樣見上ぐれば、燈の光に半面をそむけて、御袖の唐草からくさたゞならぬ露を忍ばせ給ふ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
その時やっと教会と乞食と花とが私の頭のなかで唐草からくさ模様のようにからみ合って、私に、今夜がクリスマス・イヴであるのを思い出させた。……私はそこでT君の方へふりかえりながら言った。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
二十七八に見える面長おもながな色のくっきり白い女であった。黒い筋の細かい髪を目だたないような洋髪にして、うす黄ろな地に唐草からくさ模様のある質実じみ羽織はおりているが、どこかに侵されぬ気品があった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
たったひとつ、ぼんやりいている、油灯火あかりの光りで見ると荒木の床に、畳が三畳並べてあって、その上に唐草からくさ蒲団ふとんを、柏にしてごろりと横になっている。それが、軽業お初の、とらわれのすがただ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
毛氈まうせん唐草からくさからみてるゝ夢心地ゆめごゝち
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
金の葵唐草からくさ高蒔繪たかまきゑにて紫縮緬の服紗にて熨斗目麻上下の侍ひ持行同じ出立の手代てがはり一人引添ひきそひたり又麻上下にて股立もゝだちとつたる侍ひ十人宛二行に並ぶ次にちゞら熨斗目に紅裏こううらの小袖麻上下にて股立取たるは何阿彌なにあみとかいふ同朋どうぼうなりさて天一坊は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
納戸色なんどいろ、模様は薄きで、裸体の女神めがみの像と、像の周囲に一面に染め抜いた唐草からくさである。石壁いしかべの横には、大きな寝台ねだいよこたわる。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
萬七の渡したのを見ると、の入つた鼈甲べつかふくし。銀で唐草からくさを散らした、その頃にしては、この上もなく贅澤な品です。
それは唐草からくさ模様の花の彫刻をした銀の握のある杖であつた。別段それほど惜しむに足りるものではないのに、それが彼には不思議なほど惜しまれた。
ある日、葉子は、ねずみ矢筈やはずつながった小袖こそでに、地の緑に赤や代赭たいしゃ唐草からくさをおいた帯をしめて、庸三の手紙をふところにして、瑠美子をつれて雪枝を訪問した。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
妙に気の沈む時は、部屋へやにあるふすま唐草からくさ模様なぞのこころのないものまでが生き動く物の形に見えて来た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
老人はカギを出して、唐草からくさ模様の古風な鋳物の鉄のとびらをひらいて、殿村を門内へ案内した。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところがそれはいちめん黒い唐草からくさのような模様もようの中に、おかしな十ばかりの字を印刷いんさつしたもので、だまって見ているとなんだかその中へまれてしまうような気がするのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
屏風びょうぶの裏、そこから幽霊が出て来るよう。仏壇の中、そこには文之丞があおいい面をしてにらめている。蒲団の唐草からくさの模様を見ると、そのつるがぬるぬると延びて来て自分の首に巻きつきそうにする。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
西洋の下級な女たちの手にはめられている大げさな指環は、ことごとくこれ、ガラス玉であり、牛骨と合金で出来上っているのを見た。そしてそれが愛すべく美しい模様唐草からくさによって包まれている。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
ちょうどわたしの真正面ましょうめんに坐った老人は、主人の弥三右衛門やそうえもんでしょう、何かこまかい唐草からくさの羽織に、じっと両腕を組んだまま、ほとんどよそ眼に見たのでは、釜のえ音でも聞いているようです。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
出し組ばかりなるもあり、雲形波形唐草からくさ生類しょうるい彫物のみを書きしもあり、何よりかより面倒なる真柱から内法うちのり長押なげし腰長押切目長押に半長押、縁板えんいた縁かつら亀腹柱高欄垂木たるきます肘木ひじきぬきやら角木すみぎの割合算法
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お宮は女持ちのさい、唐草からくさ刺繍ししゅうした半巾ハンケチを投げやった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
うつくしい唐草からくさなどの模樣もようすかしてあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
毛氈もうせん唐草からくさからみてるゝ夢心地ゆめごこち
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
御紋ごもん唐草からくさ蒔繪まきゑ晴天せいてんに候へば青貝柄あをかひえの打物に候大手迄は御譜代ふだい在江戸の大名方出迎でむかへ御中尺迄ちうしやくまでは尾州紀州水戸の御三方さんかたの御出迎でむかひにて御玄關げんくわんより御通り遊ばし御白書院おんしろしよゐんに於て公方樣くばうさま對顏たいがん夫より御黒書院くろしよゐんに於て御臺みだい樣御對顏ふたゝ西湖せいこの間に於て御三方樣御さかづき事あり夫より西の丸へ入せられ候御事にて御たかの儀は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そうして黄色い声や青い声が、梁をまと唐草からくさのように、もつれ合って、天井からってくる。高柳君は無人むにんきょうに一人坊っちでたたずんでいる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お庄は押入れの行李のなかに残っていたものを、萌黄もえぎ唐草からくさ模様の四布よの風呂敷に包んで、近所からやとって来た俥に積み、自分もそれに乗って、晩方中村の邸を出た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
唐草からくさ模様の敷蒲団の上は、何時の間にか柏木の田圃たんぼ側のようにも思われて、蒲公英たんぽぽが黄な花を持ち、地梨が紅く咲いた草土手を枕にして、青麦を渡る風に髪をなぶらせながら
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
明治になつてからは、政府の發行した紙幣にもその秘密があり、唐草からくさの眼の一つ/\、肖像の髯の細かい線などに、隱された急所があつたと聞いて居りますが、詳しいことは筆者にもわかりません。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
薔薇ばらの花を刺繍ぬいにした籃入かごいりのピンクッションもそのままであった。二人しておついに三越から買って来た唐草からくさ模様の染付そめつけ一輪挿いちりんざしもそのままであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
萌黄もえぎ唐草からくさ模様の大風呂敷おおぶろしきに包まれた蒲団ふとんといったようなものを、庸三の頼みつけの車屋をやとって運びこむと、葉子も子供たちを引き連れて、隣の下宿を引き揚げて行った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
鋲の色もまた銀色である。鋲の輪の内側は四寸ばかりの円をかくして匠人の巧を尽したる唐草からくさが彫り付けてある。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)