うま)” の例文
これは多分うまの日の節供をくり上げて、月の初めの五日ときめた結果、三月も同様に、それと朔旦さくたんの祝日とが併合したものであろう。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
父の家厳いえとしを初め、城中の者が、こぞって案じていた一つの推定は、その日のうまの刻になって、不幸にも、適中していたことが知れた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十二支というのは、子、うしとら、卯、たつうまひつじさるとりいぬの十二で、午の年とか酉の年とかいうあの呼び方なのです。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
朝日屋の夫婦は五日に一度くらいの割合で大喧嘩おおげんかをした。亭主ていしゅの名は勘六、細君はあさ子、どちらもとらだかうまだかの三十二歳であった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それならほんとうだろうと思って、兵太郎君は、きのううまガ池へつりにいったついでに、例のところまでいって、ためしてみたのである。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
夜、父が寄席へ出かけた留守中、浜子は新次からおうまえのきの夜店見物をせがまれると、留守番がないからと言ってちらりと私の顔を見る。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
あくる日のうまの刻すぎに、荏原権右衛門は高三河守師冬もろふゆやかたをたずねた。師冬は師直の甥であるが幼い頃から叔父の養い子になっていた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
正月十三日の夢に、来る十五日うまの刻には迎えに行くといって法然が告げる夢を見て、こんどこそはといって喜びの涙を流した。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「奥の細道」に記する所を見れば松尾桃青翁が松島に入りたる、明治と元禄との差別こそあれ、同じく四月十日のうまの刻近くなりしとなり。
松島に於て芭蕉翁を読む (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
これは摂津国屋の嗣子で、小字おさなな子之助ねのすけと云った。文政五年はうまであるので、俗習にしたがって、それから七つ目のを以て名となしたのである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「さっきここを出てから、の時に涇陵へ行って、うまの時に戦って、帰りに九天へ行って、上帝にその訳を訴えてきました」
柳毅伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お前は默つてゐろ。——ところでお美乃さん、もう聽いてゐるだらうが、お處刑は明後日の正うまこくだ。正直のところ、それまでに、小三郎を
そのうまの刻ばかりに、中御門猪熊の一色いっしき殿のお館に、乱妨人が火をかけたのでございます。それのみではございません。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
元はとらうまとの縁日の晩だけ特に沢山夜店が出て、従って人出も多く、その縁日の晩に限って、肴町から先が車止めになったような訳だったからね。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
猿猴大王を見付けて悦んでいわく、我ら年来領する山を隣国より討ち取らんとするなり。明日うまの時に軍定むべし、大王を以て大将とすべしという。
静海、刀をおろし、陰茎の脇、ふぐりの右の方を五六寸もきり割りたりとか。おのれにはただ冷水を注ぐかと思われぬ。この時、うまの刻の鐘きこえけり。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それを、欄干てすりからのぞきますとね、漬物おけ、炭俵と並んで、小さな堂があって、子供が四五人——うまの日でした。お稲荷講、万年講、お稲荷さんのお初穂はつ
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いまに尻尾しっぽを出すから見ていてごらんなさい。第一年齢が物を云いますよ。あの女は申年さるどしなんで、今年はやっと二十一です。奥さんはうまの二十三でしょう。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その日にはこの界隈にくる豆腐屋もラッパを吹いたあとで、「とうふイ、生揚なまあげがんもどき、こんちはうまの日。」
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
舞鶴城の天守のやぐらで、うまの刻……只今の正午のお太鼓がド——ンと聞えますと、すぐに鍬を放り出して、近くのどて草原くさばらの木蔭か軒下のきしたに行って弁当を使う。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さて二のうまも済みまして、二月の末になりまして、大きに暖気に相成りました。御舎弟紋之丞様は大した御病気ではないが、如何いかにも癇がたかぶって居ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たつの刻よりはじまって、うまの刻まで戦いつづけたが、二十余人の多治見勢に、二千の六波羅勢は敵しかね、要害とてない館一つを、陥落おとしかねて持てあました。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鉢ものをかしく並びて、軒につり忍艸しのぶ、これは正太がうまの日の買物と見えぬ、理由わけしらぬ人は小首やかたぶけん町内一の財産家ものもちといふに、家内は祖母と此子これ二人
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そしてここの絵馬にはめの字の記されたものが多く、うまとしの男、め、め、め、と幾つも記されてある。
山椒さんしょうの皮を春のうまの日の暗夜やみよいて土用を二回かけてかわかしうすでよくつく、その目方一貫匁かんめを天気のいい日にもみじの木を焼いてこしらえた木灰七百匁とまぜる
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
甲戌こうじゅつおおい斉眉山せいびざんに戦う。うまよりとりに至りて、勝負しょうはいあいあたり、燕の驍将ぎょうしょう李斌りひん死す。燕また遂にあたわず。南軍再捷さいしょうしてふるい、燕は陳文ちんぶん王真おうしん韓貴かんき、李斌等を失い、諸将皆おそる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たとえば「鉄砲の遠音とおねに曇る卯月うづきかな」というのがある。同じ鉄砲でもアメリカトーキーのピストルの音とは少しわけがちがう。「里見えそめてうまの貝吹く」というのがある。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
御隠居のまるのおちましたのは二十九にちのうまのこくごろでござりまして、それからは、柴田、木下、前田、佐々の手のものどもが一つになって御ほんまるへおしよせました。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私はこの年になるが、いまだかつて生れたような心持がした事がない。しかし回顧して見るとたしかに某年某月のうまの刻か、とらの時に、母の胎内から出産しているに違いない。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今井 (そのままの姿勢で)玉造文武館の諸兄は昨日のうまの刻頃進発したのですから
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
この時は二度受けたので、初度は正月二十八日いぬの刻から始めて、四月八日うまの刻まで七十日あまりで終り、再度は六月十二日の刻から七月二十五日巳の刻まで四十日余で成就した。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
うまの刻を過ぎた。諸方から焼き立てられた火の手は、とうとう本丸に達した。原城の最後の時が来た。城楼じょうろうの焼け落つる音に交って、死んで行く切支丹宗徒の最後の祈祷や悲鳴が聞えた。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
また民間に、クサメにつきて吉凶をぼくすることを伝えておる。その法は、の日のクサメには酒食のことあり、うまの日のクサメには喜びごとあり、何の日は吉、何の日は凶と定めてある。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
たつの刻からうまの刻になって始めて脱稿だっこうした。王者はそれを見て非常に悦んだ。
織成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
うまのお祭といふことが、此の上もなく私達を悦ばせてゐたのであります。
泣き笑ひ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「引けまでにはねっ返すだろう。今日はうまの日だぜ。尻っねだ」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
だんなを前にしてりこうぶるようだが、ことしゃうまの年なんだ。
大膽不敵だいたんふてきの振舞と云べし扨も享保十一うま年九月廿日に京都を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
まだうまの刻には間があった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
里見えそめうまの貝吹く 蕉
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
うまこくを期して、一舟いっしゅううかべ、敵味方の見る中で腹切らん。そのときをもって、和議を結ばん、毛利家を万代の安きにおすえ下されよ。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うまには強飯こわめしを食わせる。三月の節句には白酒をのませる。五月には柏餅を食わせる。手習の師匠であれば、たなばた祭もする。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うまガ池の南の山の中に、深くえぐられた谷間がある。両側のがけが、ちょうど、びょうぶを二まいむかいあわせて立てたようになっている。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
明日あすうまころ、この傍のみちを旅人が通るから、そのかさを飛ばして、それをりに水に入って来るところを引込んで、その体を借りるつもりだ」
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
上半身に十二支の内、うしとらたつうま、の七つまで、墨と朱の二色で、いとも鮮やかに彫ってあるのでした。
ひま行くこまの足早くてうまの歳を迎うる今日明日となった。誠や十二支に配られた動物輩いずれ優劣あるべきでないが、附き添うた伝説の多寡に著しい逕庭ちがいあり。
あるいうまに、或は牛に、此般こんはんの者も多かるべし。しかれども予がかつ聞知ききしれるかれ干支かんししかく巳を重ねたるを奇異とせる記憶は、咄嗟とっさに浅次郎の名を呼起よびおこせり。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの名高い江家ごうけ文庫が、仁平にんぺいの昔に焼亡して、とびらを開くいとまもなく万巻の群書片時に灰となったと申すのも、やはりうまの刻の火であったことまでが思い合わされ
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
四、うま年生れは山にて跳るべからず、厄災やくさいあり。ドア開けてつかつかと次の間から出てくると、タヌは
うまなど色町近くの夜店では、十六歳から女を追いかけた見栄坊のこと故伝三郎は顔がさすとて、恥しがり、明らかに夜店出しを嫌う風であった、のをたしなめて
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)