凡夫ぼんぷ)” の例文
しかし凡夫ぼんぷは平均を目の前に求め、その求むるや物体運動の法則にしたがいて、水の低きにつくがごとく、障害の少なき方に向かう。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
これと同じことに極重悪人ごくじゅうあくにん無他方便むたほうべん凡夫ぼんぷはどうして報身報土の極楽世界などへまいるべき器ではないが、阿弥陀仏の御力なればこそ
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
初めければこれまた所々しよ/\の屋敷に出入もふえ段々だん/\と勝手も能成よくなり凡夫ぼんぷさかんなるときは神もたゝらずといふことむべなるかな各自仕合能光陰つきひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
諦めるにつけ悟るにつけ、さすがはまだ凡夫ぼんぷの身の悲しさに、珍々先生は昨日きのうと過ぎし青春の夢を思うともなく思い返す。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
神明仏陀しんめいぶつだならば知らず、凡夫ぼんぷの身より光明を放つということ、泰親いまだそのためしを存ぜぬが、玉藻の御はなんと思わるるぞ
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
利己的な煩悩ぼんのうの疾いと、利他的な大悲の疾い、そこにある人間と、あるべき人間との相違があります。つまり凡夫ぼんぷと菩薩との区別があるわけです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
すだきかへるこゑつて、果敢はかないなかにも可懷なつかしさに、不埒ふらち凡夫ぼんぷは、名僧めいそう功力くりきわすれて、所謂いはゆる、(かぬかへる)の傳説でんせつおもひうかべもしなかつた。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その上またおれにしても、食色じきしきの二性を離れぬ事は、浄海入道と似たようなものじゃ。そう云う凡夫ぼんぷの取った天下は、やはり衆生しゅじょうのためにはならぬ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
木島は容貌ようぼうからして凡夫ぼんぷでない。顔が大きく背が低く色は黒い。二十一だというに誰でも三十以下に見る者はない。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
天才たり得ない民衆がそのままに美の浄土じょうどに摂取される道がないであろうか。否々、凡夫ぼんぷたるが故に、必定救われるその誓いがあり得ないであろうか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「いやいやそうともいえぬ、しかしそのことばかりは、ただ天これを知るのほか、凡夫ぼんぷ居士こじには予察よさつができぬ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時に小摩申しけるは、さてさて人間の凡夫ぼんぷにては、産をしては早くうぶ腹をあたゝめ申すこと也。ましてや三日まで物をきこしめさずおはす事のいとをしや。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
凡夫ぼんぷの悲しさは、一度をかせる惡事は善きにつけ惡しきにつけ、影の如く附きまとひて、此の年月の心苦しさ、自業自得なれば誰れに向ひて憂を分たん術もなく
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
梅花のにおいぷんとしたに振向ふりむけば柳のとりなり玉の顔、さても美人と感心した所では西行さいぎょう凡夫ぼんぷかわりはなけれど、白痴こけは其女の影を自分のひとみの底に仕舞込しまいこんで忘れず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
放火ひつけ道具だつて、あの納屋に隱すに決つて居るんだが、其處まで氣のつかなかつたのは凡夫ぼんぷの淺ましささ
喜怒哀楽を持つ生きたわれわれ凡夫ぼんぷの美をその中に見ることのすくないのを嘆ずるのもむを得ない。
本邦肖像彫刻技法の推移 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
君子くんしはそのつみにくんでその人を憎まずとあるが、かくのごときは君子くんしにして初めてなし得ることで、我々凡夫ぼんぷ小人しょうじんは、罪ならばまだしものこと、いささかの誤りがあっても
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
三ヶ年の間又作の行方ゆくえが知れませんから、春見は心配で寝ても寝付かれませんから、悪い事は致さぬものでございますが、凡夫ぼんぷ盛んに神たゝりなしで、悪運強く、する事なす事儲かるばかりで
然しながら我等凡夫ぼんぷは必しも人々尽く千里眼たることは出来ぬ。また必ずしも悉く千里眼たるを要せぬ。長尾郁子や千鶴子も評判が立つと間もなく死んで了うた。不信が信を殺したとも云える。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
見れば世の中には不可思議無量の事なしと言いがたこと仏家ぶっかの書には奇異の事をいだこれ方便ほうべんとなし神通じんつうとなして衆生しゅじょう済度さいどのりとせりの篇に説く所の怪事もまた凡夫ぼんぷの迷いを示して凡夫の迷いを
怪談牡丹灯籠:02 序 (新字新仮名) / 総生寛(著)
衆をあはせし凡夫ぼんぷ等は
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そういう上人であろうはずはなかったのに、自分の悲嘆から推して、そうあろうと、上人を凡夫ぼんぷのように想像していたことが恥かしくなってきたのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我々凡夫ぼんぷの涙は、蜆貝しじみがいに入れた水ほどのものじゃ、地蔵様の大慈大悲は大海の水よりも、まだまだ広大。
宝塔ほうたふごときにせつしたときは、邪気じやきある凡夫ぼんぷは、手足てあしもすくんでそのまゝにしやがんだ石猿いしざるらうかとした。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
早速屆出るつもりでゐたが、そこは凡夫ぼんぷの淺ましさで、金を見るとついフラフラとした心持になり、五兩費ひ、十兩取り、今では半分ほども、費つてしまひました。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
私たち凡夫ぼんぷの語には、うそいつわりが多いが、仏の言葉には、決してうそいつわりはありません。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
要するに結論けつろんを急ぐなかれ、死ぬとも生きるとも早くどうにかきめてもらいたいというのは凡夫ぼんぷのいう事にそうろう。いつかは消える燈火ともしびにしても、あおいで消す必要はなかるべく候う。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
綿帽子っての心細さ、たよりなさを覚えているほどの姑、義理にも嫁をいじめられるものでなけれど、そこは凡夫ぼんぷのあさましく、花嫁の花落ちて、姑と名がつけば、さて手ごろの嫁は来るなり
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
この世には天才ならずとも、独創ならずとも、立派に美しさを示し得る道が、凡夫ぼんぷのために用意されているのであります。美の世界においてもまた、「凡夫成仏じょうぶつ」の教えが確立されねばなりません。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
普通凡夫ぼんぷの心を喜ばせるものはおだてることである。
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
これは老先生の激励げきれいであろう。いまが大事なときであるぞと、凡夫ぼんぷのわれわれを鼓舞こぶしてくださる垂訓すいくんなのであろう。すなわち、予言のうらにふくむ真意しんいをくめば
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
面當つらあてがましくどくらしい、我勝手われがつて凡夫ぼんぷあさましさにも、人知ひとしれず、おもてはせて、わたしたちは恥入はぢいつた。が、藥王品やくわうぼんしつゝも、さばくつた法師ほふしくちくさいもの。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さっそく届出るつもりでいたが、そこは凡夫ぼんぷの浅ましさで、金を見るとついフラフラとした心持になり、五両つかい、十両取り、今では半分ほども、費ってしまいました。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「われ浄土宗を立つる心は凡夫ぼんぷの報土に生るることを示さんが為である。他の宗旨によってはその事が許されないから、善導の釈義によって浄土宗を立てたのである。全く勝他の為ではない」
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
救いは知者の手にのみあるのではない。凡夫ぼんぷも浄土への旅人である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「禅師、これは凡夫ぼんぷ如来ほとけになるまじないです」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
飛んでもない、——私は凡夫ぼんぷでございます。憎い/\と思ひつゞけながら、あのお吉のあやしい美しさに引かれました。お吉はまたそれが面白くてたまらなかつたのです。
「われら凡夫ぼんぷは、四十初惑というてよい。於犬などは、なかなかそうであるまいが」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うたなるかな。ふるのきにおとづれた。なにすわつてても、苗屋なへやかさえるのだが、そこは凡夫ぼんぷだ、おしろいといたばかりで、やれすだれごしのりだしてたのであるが、つゞいて
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あさましき悪世の凡夫ぼんぷの。諂曲てんごくの心にて。かまえつくりたるのり物にだにも。かかる他力あり。まして五劫ごこうのあいだ。思食おぼしめしさだめたる。本願他力の船いかだにのりなば。生死の海をわたらん事。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで、人間である以上、いや人なみはずれて、凡夫ぼんぷ煩悩ぼんのうにも富むかれは、当然
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もつとも最初から逃げ出さなきやなほ良いが、そこが凡夫ぼんぷの悲しさだ
「もう一歩で、曹操を、手捕りにできた所を、何という男か、曹操を背なかに負って、船へ跳び移ってしまった。今でも目に見える心地がするが、敵ながらあの男の働きは、凡夫ぼんぷわざでない」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されば、凡夫ぼんぷわれらには、けては、兵馬を見、ともしては書に親しみ、血腥ちなまぐさい中にあるほど、歌心も、欲しいとするのじゃ。平易に申せば、身ひとつに文武ふたつをあわせ持つこと。至極やさしい。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、神ならぬ凡夫ぼんぷ
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)