伊豆いず)” の例文
伊豆いず田方たがた郡の盆の竈などは、これを作り上げる者は十四歳の娘ときまっていた。珍しい話だがその時は必ず腰巻を取って出て来た。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
伊豆いず地震の時に各地で目撃された「地震の光」の実例でも、一方から他方へ光が流れたというような記録がかなりたくさんにあったが
人魂の一つの場合 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それら一団というのは、天草の残党、すなわち知恵伊豆いずの出馬によって曲がりなりにも静まった島原の乱のあの残党たちでした。
「吉三郎は相模者で、お前は伊豆いず、——海一つ向うだな、——手代の与母吉はどうだ。ちょいちょいお前を付け廻したというではないか」
そのため安政あんせい三(一八五六)ねんに、ハリスがアメリカの総領事そうりょうじとして、伊豆いず下田しもだ静岡県しずおかけん)へやってきて、幕府ばくふとこうしょうしました。
月が代ってから、に悩んでいた浅井が、伊豆いずの方へ湯治に行った留守に、お雪が不断着のままで、ふとある日お増のところへやって来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
出過ですぎたと思うほど、分けられた波のあしは、二線ふたすじ長く広く尾を引いて、小獅子の姿は伊豆いずの岬に、ちょと小さな点になった。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして、三宅さまは、その日は伊豆いずの長岡温泉に宿を予約していらっしゃるとかで、看護婦さんと一緒にお帰りになった。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
静岡県は遠江とおとうみ駿河するが伊豆いずとの三国を含みます。富士の国といってもよいでありましょう。四季をその眺めで暮します。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかしクルミさんは、箱根や伊豆いずへ出掛けるのではない。ずっと手前の、国府津の叔母さんのところへ行くのだった。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
天子てんしさまはたいそうおおどろきになり、伊豆いず国司こくし狩野介茂光かののすけしげみつというものにたくさんのへいをつけて、二十余艘よそうふね大島おおしまをおめさせになりました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ぽつんと一つ雲か何かのように見えるでしょう空に浮いて……大島って伊豆いずの先の離れ島です、あれがわたしのりをする所から正面に見えるんです。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
伊豆いず半島の修善寺しゅぜんじ温泉から四キロほど南、下田しもだ街道にそった山の中に、谷口村たにぐちむらというごくさびしい村があります。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
はたして、さしものにたけくるった大時化おおしけが、もなくおさまり、三浦みうら土地とちはさしたる損害そんがいもなくしてんだのでしたが、三浦以外みうらいがい土地とちたとえば伊豆いずとか
(明治四十一年)九月の末におくればせの暑中休暇を得て、伊豆いず修善寺しゅうぜんじ温泉に浴し、養気館の新井あらい方にとどまる。所作為しょざいのないままに、毎日こんなことを書く。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
よくはおぼえていないが、江戸時代の砲術家ほうじゅつかで、伊豆いず韮山にらやま反射炉はんしゃろというものをきずいて、そこで、そのころとしてはめずらしい大砲を鋳造ちゅうぞうしたという人である。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
その来宮様のいた処は、今の静岡県しずおかけん加茂郡かもごおり下河津村しもかわづむら谷津やづであった。某年あるとしの十二月二十日ごろ、私は伊豆いず下田しもだへ遊びに往ったついでに、その谷津へ往ったことがあった。
火傷した神様 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
長島伊豆いず、安井将監しょうげんと名のる徳川家の使者が、今朝、前ぶれもなく、黒田ノ城へ臨んで云った。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
横須賀よこすか以下、東京湾の入口に近い千葉県の海岸、京浜間けいひんかん、相模の海岸、それから、伊豆いずの、相模なだに対面した海岸全たいから箱根はこね地方へかけて、少くて四寸以上のゆれ巾
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
伊豆いず七島から、小笠原おがさわら諸島にかけて、漁業には深い経験のある漁夫出身者で、いくどか難船したこともあり、いつも新しいことを工夫する、遠洋漁業調査には、なくてはならぬ
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
箱根から伊豆いず半島の温泉へ、志ざす人々で、一杯になっているはずの二等室も、春と夏との間の、湯治には半端はんぱな時節であるのと、一週間ばかり雨が、降り続いた揚句あげくであるためとで
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
僕がいま一番尊敬しているのは、僕の使っている三十五の伊豆いずという下級職工ですよ。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
伊豆いず熱海あたみ温泉場の挽物師ひきものしで山本由兵衛という人の次男の国吉というのを養子にしたのですが、この子供が器用であって、養父の吉兵衛さんも職業柄彫刻のことなどに心がある処から
伊豆いずの国には流人るにん前右兵衛佐頼朝さきのうひょうえのすけよりとも常陸ひたちには信太三郎先生義憲しだのさぶろうせんじょうよしのり佐竹冠者昌義さたけのかんじゃまさよし、その子の太郎忠義、三郎義宗、四郎高義、五郎義季、陸奥には故左馬頭義朝さまのかみよしとも末子ばっし九郎冠者義経くろうかんじゃよしつねなど。
この上等品は秋から冬にかけて発生するのだがことごとく横浜へ出して支那へ輸出してしまう。伊豆いず一国から毎年二十万円位の椎茸を輸出するそうだ。春子はるごというのは沢山発生してやすい。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
飛地の伊豆いず田方郡たかたごおりの諸村を見廻りの初旅というわけで、江戸からは若党一人と中間ちゅうげん二人とを供に連れて来たのだが、箱根はこね風越かざこしの伊豆相模さがみ国境くにざかいまで来ると、早くも領分諸村の庄屋しょうや、村役などが
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「実にいい天気だ。伊豆いずが近く見えるじゃないか、話でもできそうだ」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「こんな場所で、どうかと思うが、いそぐゆえ、伺いますが、こなたの上方かみがたの持米が船積みされ、今ごろは、もう、伊豆いずの岬にも、さしかかっているであろう——とのこと、実証でありますかな?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
わし伊豆いず網代あじろへ行ったことがある、其処に売られて来た芸妓げいしゃは、矢張叔父さんにだまされて娼妓じょろうにされまして来たと云うので、涙を落しての話で有ったが、それはお気の毒な事だねえ、左様でげすか
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
箱根路をわが越え来れば伊豆いずの海やおきの小島に波のよる見ゆ
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「何でも伊豆いずの海岸を廻るとかいう御話しでした」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それだからバンギ(肥前ひぜん平島ひらしま)と謂ったり、ヨサイギモン(下甑島しもこしきじま)と謂ったり、ヨウマアサマ(伊豆いず新島にいじま)と謂ったりする。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今度のは箱根はこねから伊豆いずへかけての一帯の地に限られている。いつでもこの程度ですむかというとそうは限らないようである。
時事雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ここで中部と名づけるのは便宜上、美濃みの飛騨ひだ尾張おわり三河みかわ遠江とおとうみ駿河するが伊豆いず甲斐かい信濃しなのの九ヵ国を指します。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そこで為朝ためとも死罪しざいゆるして、そのかわつよゆみけないように、ひじのすじいて伊豆いず大島おおしまながしました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
私たちが、東京の西片町のお家を捨て、伊豆いずのこの、ちょっと支那ふうの山荘に引越して来たのは、日本が無条件降伏をしたとしの、十二月のはじめであった。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その七万両というのは、大久保石見守が、家康公の命令で、最初に伊豆いずの金山を掘った時、後日のために、掘った黄金の一部を割いて箱根の山中に隠して置いたのだ。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
しかしさいわいなことに、その島原の騒動も、知恵伊豆いずの出馬によってようやく納まり、乱が起きてからまる四月め、寛永十五年の二月には曲がりなりにも鎮定したので
「この人はいつかお話した伊豆いずさんです。僕の一番お世話になっている人です。」
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
元旦がんたんの初日の出を、伊豆いず近海におがみ、青空に神々こうごうしくそびえる富士山を、見かえり見かえり、希望にもえる十六人をのせた龍睡丸りゅうすいまるは、追手おいての風を帆にうけて、南へ南へと進んで行った。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
思う仔細しさいがあって、一時宿を引払って旅に出る、行く先とては定まらぬ、謂わば放浪の旅だけれど、最初は伊豆いず半島の南の方へ志すつもりだと告げ、小さな行李こうり一つをたずさえて出発しました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
父さまが鎌倉かまくらにおいでなされたら、わたしらもこうはあるまいものを、名聞みょうもんを好まれぬ職人気質かたぎとて、この伊豆いずの山家に隠れずみ、親につれて子供までもひなにそだち、しょうことなしに今の身の上じゃ。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのはてに、伊豆いずの連山が、淡くほのかに晴れ渡っているのだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「すると向こうに見えるみさき伊豆いずの国とはちがいますか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊豆いず八丈島はちじょうじまなどでは、屋根葺きおわりの日の祝宴をニイトメ祝いといっているが、これがいとめであることはもう気づかぬ人が多くなった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
伊豆いず地方が強震に襲われた。四日目に日帰りで三島町みしままちまで見学に出かけた。三島駅でおりて見たがかわらが少し落ちた家があるくらいでたいした損害はないように見えた。
時事雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いやしくも老中職の松平知恵伊豆いずが、かまのような判を押して保証しただけに、大のおもわく違いで、温厚なものならむろん人に恨みを買うような非行もないはずでしたから
為朝ためともおにしまたいらげたついでに、ずんずんふねをこぎすすめて、やがて伊豆いず島々しまじまのこらず自分じぶん領分りょうぶんにしてしまいました。そしておにしまから大男おおおとこ一人ひとりつれて、大島おおしまかえってました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
伊豆いずの大島にやられていまして、毎日毎日、実にイヤな穴掘工事を言いつけられ、もともとこんなせ細ったからだなので、いやもう、いまにも死にそうな気持ちになったほどの苦労をしました。
女類 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あたりまえだ、北日本の海に伊豆いずはない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)