一寸ちよつと)” の例文
かれこもつくこをかついでかへつてとき日向ひなたしもすこけてねばついてた。おしな勘次かんじ一寸ちよつとなくつたのでひどさびしかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
帽も上衣うはきジユツプも黒つぽい所へ、何処どこか緋や純白や草色くさいろ一寸ちよつと取合せて強い調色てうしよくを見せた冬服の巴里パリイ婦人が樹蔭こかげふのも面白い。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
いたにはあまり人がりませぬで、四五にんりました。此湯このゆ昔風むかしふう柘榴口ざくろぐちではないけれども、はいるところ一寸ちよつと薄暗うすぐらくなつてります。
年始まはり (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
仕舞には只今番頭が一寸ちよつとましたから、帰つたら聞いて持つて参りませうと云つて、頑固に一枚の蒲団を蚊帳かや一杯に敷いて出て行つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一寸ちよつとくつさき團栗どんぐりちたやうなかたちらしい。たゞしその風丰ふうばう地仙ちせんかく豫言者よげんしやがいがあつた。小狡こざかしきで、じろりと
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『いいわ。どうかなるわ。けれどあなた一寸ちよつと新橋の停車場すていしよんへ電話で聞いて見て下すつても好いわ。あのう、食堂車の前の箱ですつて。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
探す段になると一寸ちよつとないものよ。滅多なものはお世話は出来ないしね。その前にも私は一軒心当りのところへ行つて見たんだけど。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
幾許いくら急いで出掛けたつて、何とか一言ひとことぐらゐ言遺いひおいてきさうなものぢやないか。一寸ちよつと其処そこへ行つたのぢやなし、四五日でも旅だ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
猛狒ゴリラるいこのあな周圍しうゐきばならし、つめみがいてるのだから、一寸ちよつとでも鐵檻車てつおりくるまそとたら最後さいごたゞちに無殘むざんげてしまうのだ。
ラゲさんは、自分の生国しやうこくが、クリストフがかつて居住してゐた土地であるといふ話しなどが出たので、一寸ちよつと因縁いんねんをつけて考へたものであつた。
風変りな作品に就いて (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
『よし、さあでは引きあげ、おいたれでもおれたちがこの車を出ないうちに一寸ちよつとでも動いたやつは胸にスポンと穴をあけるから、さう思へ』
氷河鼠の毛皮 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
血腥ちなまぐさい事件の豫感に、平次は一寸ちよつと憂欝いううつになりましたが、直ぐ氣を變へて、ぞんざいに顏を洗ふと、びんを撫で付け乍ら家へはひつて行きました。
韋駄天は天のはてからどし/\けてきて、爺の目のまへにぴつたり立ちふさがりました。爺はとぢてゐた目を一寸ちよつとばかり開いて見ました。
天童 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
兒玉こだま先程來さきほどらいおほくちひらかず、微笑びせうして人々ひと/″\氣焔きえんきいたが、いま突然とつぜん出身しゆつしん學校がくかうはれたので、一寸ちよつとくちひらなかつたのである。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「どうもしないさ。僕は散歩した次手ついで一寸ちよつと寄つたのだよ。まだ夕餐は食べないけどお腹は空かないから何も御馳走しなくつてもいゝよ。」
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
一通りの話がすんだもんだから、小池さんに一寸ちよつと外へ出てもらつて、駅前の葭簾張よしずばりの下のベンチで、よく/\懇談をした筈だ。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
椰子やしの水はおいしいもんだわね。一寸ちよつとねえ、冷くてとてもなまぐさい匂ひがしたわねえ……。椰子の実の水が飲みたいのよ」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
吾妻は微笑ほゝゑみつ「なに、郷里へ一寸ちよつと帰つただけのです、今晩あたり多分帰京かへつた筈です、で、罪名は何とする御心算おつもりですネ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
はらたずか言譯いひわけしながら後刻のち後刻のちにと行過ゆきすぎるあとを、一寸ちよつと舌打したうちしながら見送みおくつてのちにもいもんだもないくせ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一寸ちよつとみたゞけでは何んの商売か見当のつかない店のあがはなに、端然と腰をかけたかれのすがたがみつかつたではないか……
にはかへんろ記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
男はおかみさんの袋を両手に持上げて重みを計り、あたりに一寸ちよつと気を配りながら自転車の後に縛りつけた袋と、棒のついたはかりとを取りおろした。
買出し (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
母が一寸ちよつとそとへ出た隙を見て、伯母は私の部屋へ這入つて參りました。私は下を向いたきり一言も口が利けませんでした。
反古 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
「お疲れでしたでせう。相済みませんでした。」夫婦から一寸ちよつと離れた据膳すゑぜんはしをとつたAさんが、まゆを寄せて見せた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
ナニ、俊子トシこの様な子供に其黄金機会がないとおいひのか?おまへ一寸ちよつと、さしあたりどんな黄金機会が入用いりようなのですか
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
本當ほんたうかんがへてれば、一寸ちよつとした機會チヤンス、また一秒間びやうかんときめに、未來みらいのどんな運命うんめいないともかぎらないのだ。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
とお栄は流許ながしもとへ来て、棚の上にある黄色い薔薇の花を一寸ちよつと自分で嗅いで見て、それから子供の鼻の先へ持つて行つた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「それもさうやなア。……重さん一寸ちよつといて、太政官呼んで來いよ。……あいつが儲けた普請や、このざま見せたろ。」
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それとも短兵急に将門から攻められることを恐れて、責めせまらるゝまゝに已むを得ず出したか、一寸ちよつと奇異に思はれる。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
あいちやんはうさぎ襯衣チヨツキ衣嚢ポケツトから時計とけい取出とりだして、面白おもしろさうにそれをいてしまうなんてことを、れまでけつしてたことがないわとこゝろ一寸ちよつとおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
子供は気を呑まれて一寸ちよつと静かになつたが、直ぐ低いすゝり泣きから出直して、前にも増した大袈裟おほげさな泣き声になつた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
一寸ちよつとればぐに完全くわんぜんものくらゐかんがへて見物連けんぶつれんは、一かうなにないので、つりるよりもだつまらぬなど、そろ/\惡口わるくち掘出ほりだすのである。
折角ねむらうとすればもしもしと呼び起され、少しとろとろしたと思ふと、頭を毛脛けずねで跳ね飛ばされなどして、一寸ちよつとも不自由な思ひをしないことはない。
いまいままでりつめてゐた一寸ちよつとゆるんで、彼女かのぢよは一安心あんしんのためにがつかりしてしまつたのである。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「天の羽衣とはどんなものか、一寸ちよつと見せなさい。」と言つて、見るものもありました。けれどもそれは一寸見たゞけではただ真白まつしろな絹布のやうに見えました。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
それで一時一寸ちよつと之が評判になつて、逢ふ人が皆其の事を言ひ出すので、僕はお蔭でうるさいおもひをさせられた。
露都雑記 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
そして、ひとかど、かんがんで、眞面目まじめかほをして、一寸ちよつとつて頂戴ちやうだいつて頂戴ちやうだいつたら、と喧嘩けんくわしてゐる。
では一寸ちよつと御尋おたづね致したい事がございます。私共の国の先の殿様は大層悪い殿様で無茶苦茶に高い税金を取られまして、もう国中は貧乏になつてしまひました。
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
無論一部の事にはそろへども江戸えど略語りやくご難有ありがたメのと申すが有之これあり難有迷惑ありがためいわくそろかるくメのりやくし切りたる洒落工合しやれぐあひ一寸ちよつと面白いと存候ぞんじそろ。(十九日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
そこに加納暁、結城哀草果、高田浪吉、辻村直の諸君が入つた。赤彦君は一寸ちよつとうなづき、『おれはなるたけ物を云はぬが、君等はいろいろ話してくれたまへ』
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「何てエ馬鹿だらう此奴は、……誰がそんな呑気な気でゐられる、ほんとに拳固だぞ。」と彼は無気になつて怒つたが、一寸ちよつと周子の懸念が自分でも感ぜられた。
熱海へ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
今、お宅へ伺つたら、こちらだといふ事でしたから。……一寸ちよつと畑の方をのぞいて来たんですが、まあ、何と言つたらいゝんでせうかね。僕等のやうな弱い心臓ハート
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
いま濱田ハマダ宮本ミヤモト兩先生りようせんせい御話おはなしついて、わたくし已徃きおうおいかんじましたること一寸ちよつと貴方所あなたがたまうげましたのです。
見て打驚うちおどろきて居たる時におせん穩當しとやかに昌次郎に向ひ昨日一寸ちよつと御目にかゝり金子百五十兩御渡し申せし彌太八樣もう私しかまゐりし上はあらそひ給ふもえきなきこと早々金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
娘の頃は学用品や身の廻りの一寸ちよつとした買物、女学校でも卒業すると、反物の選び方に腐心するやうになるが、家庭にはいつて、買物の範囲はグツとひろめられて来る。
買ひものをする女 (新字旧仮名) / 三宅やす子(著)
それから少し変つてゐるのに、一寸ちよつと西洋せいやうの童謡見たやうなのがあります。それは珍らしいものです。
お月さまいくつ (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
普通ふつう出來できてゐる水道鐵管すいどうてつかんは、地震ぢしんによつて破損はそんやすい。たゞ大地震だいぢしんのみならず、一寸ちよつとしたつよ地震ぢしんにもさうである。とく地盤ぢばんよわ市街地しがいちおいてはそれが著明ちよめいである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
それでも小ぐまさんは、もう一寸ちよつとの辛抱だ、もう一寸の辛抱だと思つて、我慢をしてゐました。
かくれんぼ (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
緑雨にも、私にも辞儀一つせず、楼婢には一寸ちよつと目で挨拶をして座に著きながら、緑雨に「お前、どうしたい? 久しく来なかつたね」とまるで弟か甥に対するやうな口吻。
斎藤緑雨と内田不知菴 (新字旧仮名) / 坪内逍遥(著)
かりに一人のイギリス人があつて、それが日本語に精通して居たといふので、シエイクスピアの翻訳を企てたらどんなものであらう。一寸ちよつと考へられない馬鹿気た話である。
翻訳製造株式会社 (新字旧仮名) / 戸川秋骨(著)
これこれテン太郎 一寸ちよつとまて きのふからな お父さんのひげにコオロギがをつくつたんぢや