鼻白はなじろ)” の例文
高座姿のイエの美しさに私は鼻白はなじろんでばかりいた。その夜はイエが自分よりずっと大人に見えてしょうがなかった。
前途なお (新字新仮名) / 小山清(著)
へんなことをいう臆面おくめんのない男だと、秀吉は、感心しているような、またすこし、鼻白はなじろんだような面持おももちで、まじまじと、弥九郎のくちもとを見まもった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弁士はさつと鼻白はなじろんで、しばらく絶句した。そのすきに聴衆がざわつきだす。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
ところが、哀れな鉄さんは、卑屈をいやしまず貧乏を鼻白はなじろんだ。彼は何時いつまでもウジウジかがんでいた。祖母はたまらなくなったと見えて台所口へゆくと柄酌ひしゃくに水をくんで鉄さんの頭からあびせかけた。
手短かに、源次から調べ上げた事実を話すと、五人の同心、少し出しぬかれて鼻白はなじろんだ様子に見えた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐそこには、右衛門ノすけ義助のいかつく坐りこんだ姿を男女ふたりは見ていた。さすが薬湯の匂いやここの病臭は、義助の不作法をちと鼻白はなじろませたふうだった。——義助は仮病だと信じこんで来たらしい。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)