鼠甲斐絹ねずみかいき)” の例文
京都寄竹派きちくは普化宗ふけしゅう明暗寺に行って虚無僧こむそうの入宗許可を受け、重蔵も千浪も同じような鼠甲斐絹ねずみかいきに丸ぐけ帯、天蓋尺八という姿になった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼠甲斐絹ねずみかいきのパッチで尻端折しりはしょりうすいノメリの駒下駄穿こまげたばきという姿なりも、妙な洒落しゃれからであって
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
相良玄鶯院さがらげんおういんは、熊手を休めて腰をたたいた。ついでに鼠甲斐絹ねずみかいき袖無着ちゃんちゃんこの背を伸ばして、空を仰ぐ。刷毛はけで引いたような一抹いちまつの雲が、南風みなみを受けて、うごくともなく流れている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
胴のみ鼠甲斐絹ねずみかいきの裏つけたるをはおる。
万吉もその様子を見てホッとしたが、ヒョイと見ると鼠甲斐絹ねずみかいきの袖に、点々たる返り血のあと——。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門柱の蔭にすがって、弦之丞は、駕から奥へ連れられてゆく、痛ましい人の姿を見送っていたが、やがて、両眼へを当てたまま、鼠甲斐絹ねずみかいきのかげ寒く、代々木の原を走っていた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)