麻裏草履あさうらぞうり)” の例文
縁の隅に麻裏草履あさうらぞうりが置いてあって、食後などには折々庭へ出て見られるのですが、上る時には必ず元のように裏返しにして置かれます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
殊に麻裏草履あさうらぞうりをまず車へ持ていてもらって、あとから車夫におぶさって乗るなんどは昔の夢になったヨ。愉快だ。たまらない。
初夢 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
成程なるほどれは馬のく車だと始めて発明するような訳け。いずれも日本人は大小をして穿物はきもの麻裏草履あさうらぞうり穿はいて居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
身扮みなりも平常のまま、金は一文も持っていたはずはなく、その上心掛けのある町人にげなく、麻裏草履あさうらぞうりを突っかけて、手拭を一本持ったきりで出て行ったのですから
私が一尺も歩く間に影はぐいぐいと二尺も伸びる。影の頭と女の踵とは見る見るうちに擦れ擦れになる。女の踵は、———この寒いのに女は素足で麻裏草履あさうらぞうり穿いている。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ことに私のおった学校は田舎いなかの田舎で麻裏草履あさうらぞうりさえないと云うくらいな質朴な所でしたから、学校の生徒でヴァイオリンなどをくものはもちろん一人もありません。……
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「では、とにかく、」と云ってそこにある麻裏草履あさうらぞうりを突かけて、先に立った。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「そうだろう麻裏草履あさうらぞうりがない土地にヴァイオリンがあるはずがない」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)