鬱蒼こんもり)” の例文
柵の中は、左程廣くもない運動場になつて、二階建の校舍が其奧に、愛宕山の鬱蒼こんもりした木立を背負つた樣にして立つてゐる。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
殿下に手を執られて、いしだたみを踏んでしっとりと露を帯びた、芝生へ降り立った。ぶなの大木が鬱蒼こんもりと枝葉を繁らせて、葉陰に二、三脚のベンチが置かれてある。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
鬱蒼こんもりとしたやなぎの緑がかれの上になびいた。楊樹やなぎにさし入った夕日の光が細かな葉を一葉一葉明らかに見せている。不恰好ぶかっこうな低い屋根が地震でもあるかのように動揺しながら過ぎていく。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ぎょうの松にむかった方には狩野かのうという絵師の家が、鬱蒼こんもりした中に建っていた。
二人は鬱蒼こんもりとしたけやきの下をえらんだ。そこには人も居なかった。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鬱蒼こんもり楊柳やなぎかがやくまさびしき遠き入江に日の移るなり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
棟を掩うて鬱蒼こんもりと繁った、高い杉の防風林も、玄関の前に瘤々の根を張った、百日紅さるすべりの老樹も、また昔の庄屋時代から続いている、三棟四棟の崩れかかった土蔵も、奥庭の石灯籠や泉水も
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)