かんば)” の例文
その廠の中にも技術者もあることだから、そういう人たちはどうしているのかと聞いてみると、病状は大いにかんばしくない。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
が、春の雨であった。一雨ごとに育つ草木、一雨ごとにつぼみをひらく花——その葉や茎や枝や花のかんばしい香が空気に充ちて、いっそ清々しく感じられた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この栴檀は二葉よりかんばしい名木ではない。オウチの実である。かつて新年に伊勢神宮に参拝した時、黄色い実のなっている木があって、センダンだと教えられた。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
炷物たきものいているのでもあろうか? 香料を身につけているのでもあろうか? 駕籠の中から形容に絶した、かんばしい匂いが匂って来た。いやいやそうではなさそうであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
デパートメントの主人であった。外妾を持っているということで新聞へ書かれた紳士であった。車内は桃色に明るかった。柔かいクッション、かんばしい香水、二人はきっと幸福なんだろう。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
来た所が品川の海岸で、この頃はすっかり日が暮れて、月がまるく空へかかった。もうほとんど人通りがない。あてなしにブラブラ歩いて行く。海では波も静からしい。青葉の匂いがかんばしい。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いつぞやの夜にはその女が物いうごとに形容に絶した、愛欲をそそるかんばしい匂いが、息苦しいまでに匂って来て、紋也を恍惚の境地へまで墜落させたはずであったが、はたして今夜はどうであろうか?
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)