夜来の行軍のつかれもあり、陽もうらうらと朝を告げて、全軍、ようやく飢もじさを覚えていたので、潜行軍の最後方の——この秀次隊は
「お母あちゃまは、どうしたろうな。おまえも母をさがして泣くか。おお、よしよし。飢もじいか。いまに久助が、何か買って来よう。泣くな。泣くな」
……で、街の空のみ眺めていましたが、赤子は飢もじゅうなり出して、ヒイヒイ泣くし、あいにく家内の容体も、こよいは常より病状が悪いので、途方にくれていたところでございまする
『堀川から拝借してきたお金です。すこし足りませんが、実は、友だちに会って、費いました。それから、小さい弟どもが、飢もじがっているので、経盛へも、少々、持たせました。残りが、これだけで……』