飢民きみん)” の例文
前年の飢饉には、供御くごの物も減ぜられ、吏を督して、米価や酒の値上りを正し、施粥せがゆ小屋数十ヵ所を辻々に設けて、飢民きみんを救わせ給うたとも説く。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山中越えの片輪の飢民きみんたちに、木綿をめぐみ、小屋掛料を施し、あとあとの生活まで、こごえぬように注意して行った人もまた同じ信長であった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長は云い添えて、なお彼らの小屋掛料こやがけりょうまで施して去った。その行列の遠く降りて行ったあと、峠の蝉時雨せみしぐれは彼の慈悲に泣く飢民きみんの声のようでもあった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰か、その信長が、岐阜を立つときからすでにこんな路傍の飢民きみんにまで、心をかけていたなどと思いつこう。家臣がみな意外としたのはむしろ当然であった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その鉄眼はまた、飢饉の年でもあると、そんなにして集めた大蔵経のための浄財を投じて、買えるだけの米を買い、大坂、京都、江戸の三都で、飢民きみんを救った。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無智な飢民きみんの眼には、悲しむべきこの実相も、なんの異変とも映らぬもののようだった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平家をいつまでも、ああさせておくのか。また、路傍の飢民きみんをどうするかである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山科では、死馬の腐肉ふにくにたかっている飢民きみんがあった。木の実をさがす幽鬼のような山林の人影もみな避難民なのであろう。三条河原は屍臭にみち、全市はあらかた灰の野ッ原と黒い枯木の骨だった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)