飄然ふらり)” の例文
媼さんは其時から病身になつたが、お里は二十二の夏の初めに飄然ふらりと何處からか歸つて來た。何處から歸つたのか兩親は知らぬ。訊いても答へない。
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
洋服姿の男がふらりと入って来て「郵船ふねは……」とくと、店員は指三本と五本を出して見せる。男は「八五だね」とうなずいてまた飄然ふらりと出てゆく。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
飄然ふらりと帰つて来ると、屹度私に五十銭銀貨を一枚宛呉れたものである。叔父は私を愛してゐた。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
もう六十に手のとどいた父の乗雲は、うち惨状みじめさを見るに見かねて、それかと言つて何一つ家計の補助たしになる様な事も出来ず、若い時は雲水もして歩いた僧侶上りの、思切りよく飄然ふらりと家出をして了つて
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)