隠微いんび)” の例文
(しかしそれらの中に沈んでゐるのは、孤独のおりではない。ひどく華やいだ、むしろ孤独悦のこころの、——隠微いんび擬態まどはしだつたやうだ)
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
それに、はっきり自分で意識していたわけではなかったが、故郷の自然というものが、隠微いんびの間に彼をひきつけていたこともたしかだった。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それらは実に鮮やかに、また鋭くきざみ出されているのであるが、しかしその美しさは、天平の観音のいずれにも見られないような一種隠微いんび蠱惑力こわくりょくを印象するのである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
殊にも、彼女の寝室の秘密は、どの様な隠微いんびな点までも、はれがましくもまざまざと描き出されていた。顔の赤らむ様なある仕草、ある言葉さえもが、冷酷に描写してあった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そしていやしくもそれが真理であり、科学的の事実でさえあれば、一切の先入的偏見を排除して、千万人といえどもわれ行かんのがいもって、宇宙間の隠微いんびを探るべく勇往邁進する。
また、隠微いんびな笑いが流れた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そこに漂う何かしら隠微いんびな魂が高話たかばなしを抑えつけて、囁き声にしてしまうものである。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
友よ! 宗教なるものは、決して人間が人為的に捏造したような、そう隠微いんび不可解な問題ではない。宗教は地上の人間の狭隘なる智能の範囲内において、立派に掴み得る問題なのである。