陥入おとしい)” の例文
旧字:陷入
一つは主人達の眼をくらます為であり、主な理由はそうして働きながら、眼の角に入れるミチの刺青いれずみの肉体が彼を異常な歓喜に陥入おとしいれるのだ。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
そりゃ、叔父さん、相場師の社会と来たら、実にひどいものです。同輩を陥入おとしいれることなぞは、何とも思ってやしません。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分の地位を築き上げるためには他人を陥入おとしいれる位のことは、まことに——尾籠びろうたとえで恐縮ですが、——屁とも思わないといった、冷酷無残な性格の持主でした。
そのくせ卑怯未練で、人の知らない悪事は口をぬぐい、告げ口密告はする、しかも自分がそれよりもなお悪いことをやりながら、平然と人を陥入おとしいれて、自分だけ良い子になり、しかも大概成功した。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
どうやらこういった女の声は、若い美貌の武士たちを、驚きと絶望とへ陥入おとしいれたらしい。四人一度に寄り添ってしまった。でおのずから四人の姿は、燭台の燈火を中央にして、一種の円陣を形作った。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)