阿娜あだ)” の例文
橋廊下の阿娜あだな女は、片肱かたひじのせた欄干に頬づえついて、新九郎の後ろ姿をいつまでもじっと瞳の中へとろけこむほど見送っていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
齒ぎれの良い調子、莞爾につこりすると、漆黒しつこくの齒がチラリと覗いて、啖呵たんかのきれさうな唇が、滅法めつぽふ阿娜あだめいて見えます。
あれは故越路太夫の養女の小しづと云ふ妓であつたさうだが、美人と云ふよりは実に阿娜あだな女であつた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
阿娜あだっぽくて高尚で、どんな品のある人間の女だって、これほどの色気はないのである。
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
娘は髪を大きなまげに結って高く裾をからげていた。裾廻りの派手な色が、娘の淋しい顔だちをひどく阿娜あだに彩り、もうからだつきがすっかり女になりきって、肩や腰の肉づきは驚くほど豊かだった。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その阿娜あだな声と阿娜な姿の持ち主をふと見ると、いまだに投げ槍小六との悪縁の糸にからまれ、しかもそのきずなはきれずに旅から旅へのしがない生活を続けた後
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風俗が意気で阿娜あだつぽく、おまけに大川と云ふ水の眺めを控へて、ひとしほ微吟低酌の興趣に適してゐたから、無位無官の文人には新橋赤坂よりも親しみ易かつたのであらう。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と新九郎は、そこへすっきり水際立った、寝巻姿の阿娜あだなのに目をみはった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何処どこかに阿娜あだめいた、たゞ者ならぬ感じがした。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)