遽然にはかに)” の例文
遽然にはかに、蓮華寺の住職が説教の座へ上つたので、二人はそれぎり口を噤んで了つた。人々はいづれもすわり直したり、かたちを改めたりした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
不思議ふしぎ黄雲くわううん遽然にはかにして眼前がんぜんあつまりぬ、主從しゆうじうこれうち
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
遽然にはかに丑松は黙つて了つた。丁度、喪心した人のやうに成つた。丁度、身体中の機関だうぐが一時に動作はたらきを止めて、斯うして生きて居ることすら忘れたかのやうであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
左様さう? 勝野君も?』と丑松は徴笑み乍ら答へた。遽然にはかに、心の底から閃めいたやうに、憎悪にくしみの表情が丑松の顔に上つた。もつとも直に其は消えて隠れて了つたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)